国内 2018.12.20

NTTコムの「もう一人の石井」。大一番で殊勲のトライ決めたWTB石井勇輝。

NTTコムの「もう一人の石井」。大一番で殊勲のトライ決めたWTB石井勇輝。
5・6位決定戦決定戦でパナソニックを倒し、NTTコムの仲間と喜ぶ石井勇輝(撮影:山口高明)
 NTTコミュニケーションズのウイング石井――。そう聞いて、多くのファンが想像するのは、2018年はサンウルブズや日本代表にも参加したWTB石井魁だろう。
 しかしNTTコムには要注目の「ウイング石井」がもう一人いる。
 12月15日、神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場でおこなわれたトップリーグ5・6位決定戦(リーグ総合順位トーナメント3回戦)。パナソニック×NTTコム。
 逆転を懸けたパナソニックのPGがHポールに弾かれ決着するという、劇的な結末により、NTTコムが43−41でパナソニックに競り勝った。NTTコムのパナソニック戦勝利は2012年以来6シーズンぶり。最終順位はNTTコムが5位、パナソニックは6位となった。
 この大事な一戦で、後半37分に殊勲の同点トライを決めたのが、今季東洋大から新加入したルーキーのWTB石井勇輝だ。スクラムからのサインプレーで、パワフルな加速と突進力を見せ、ゴール下に飛び込んだ。
「最後の最後にチャンスが回ってきて、『絶対決めなきゃな』と思っていました。そうしたら周りのおかげでトライを取れたという感じですね。“必殺サイン”みたいな感じです」
 身長184センチ、体重95キロの大型WTBは、神奈川県出身の22歳。
 スポーツは小学3年から野球を始め、中学時代は全国大会優勝経験もある「世田谷西リトルシニア」でプレー。しかし肘や膝のケガで、野球は断念。東京・日体大荏原で楕円球に出会った。
 当時の部員数は約30人。高校3年時にはバックスのバイスキャプテンを務めたが、積極的な理由ではなかった。
「バイスをやるような性格じゃなかったんですけど、なにせ人数がいないので。同期は8人で、そのうちバックスは2人でした。そのうちの一人は途中からラグビーを始めた部員だったので、自分がやるしかなかったんです」
 帰り道に駄菓子屋に寄ることが楽しみだった、のんびりとしたラグビー部生活。
 しかし大学は一転、全国から選手が集う関東大学リーグ戦2部の東洋大へ。
バックスやフォワードを行き来しながら、持ち前の強さに磨きをかけ、トップリーグ入りを掴んだ。
「自分で言うのもあれですが、日体荏原からトップリーグに行けるなんて信じられないことです。日体荏原では初めてのトップリーガーです」
 東洋大の先輩も「トップリーグにはいま3人だけです」。ヤマハ発動機のSH篭島優輝、SO清原祥、そしてNTTコムの石井勇輝。
 母校の東洋大は今年度、20年ぶりに関東大学リーグ戦1部入替戦に臨んだ。しかし24−42で専大に敗れる。これからの東洋大を担う、後輩へのメッセージは熱かった。
「1部のチームに比べたら見られる機会は少ないかも知れないけど、ラグビーに真摯に向き合えば、報われます。必ず」
 そう男前な返答をした石井(勇)だが、明るく気取らないキャラクターで、部内では「いじられキャラです(笑)」。
 世代別代表歴もなく、全国的には無名選手だった。
 そんな未知数のルーキーは、リーグ第7節の宗像サニックス戦に途中出場し、トップリーグデビュー。いきなりトップリーグ初トライを決める大活躍を見せ、本人も手応えを掴んだ。
「サニックス戦はフィジカルやスピードでもいけました。ハンドオフも得意なんですが、そこでもいけたと思います」
 それからカップ戦3試合を含め、12月の順位決定トーナメント3試合に全試合出場した。明らかな躍進だった。本人も「春の時点では想像もできなかったことです」と驚いている。
 要所で目立った活躍をすることから、先輩やスタッフから「持っている」とも言われるという。NTTコムの“持っている男”は、これからどんな軌跡を描くのだろうか。
(文:多羅正崇)

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