コラム 2018.12.20

【野村周平コラム】最初の、ちりになる

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【野村周平コラム】最初の、ちりになる
ポーランドで行われた国連の国際会議に参加した佐野高ラグビー部の渡来主将

■気候変動や社会貢献について取り組み、地域に愛される活動をやっていく――そういうアイデンティティーが根付き、認知されれば、部員数も増えるし、強くなれる。きっと先につながる。

「ちりも積もれば山となる。僕たちは、その最初のちりになりたい。風に吹っ飛ばされてしまうかもしれない。でもそのちりがなければ、山は積み上がらない。地面に根付く、ちりでありたい」  栃木県立佐野高校ラグビー部の石井勝尉監督は、電話越しにそう語った。言葉に熱がこもっていた。  今月11日、ポーランドで行われた国連の国際会議に同高ラグビー部の渡来遊夢(わたらい・ゆうむ)主将と出席した。地球規模で課題になっている気候変動に、発信力のあるスポーツ界がどう向き合い、具体的な解決策を提示していくか。国際オリンピック委員会(IOC)や2020年東京五輪・パラリンピック、24年パリ五輪の大会組織委員会なども参加した会議に、マネジャーも含めて部員12人の地方の公立校ラグビー部が加わったのだ。「すごいところに来た」。監督と主将はそう顔を見合わせたという。  きっかけは今年9月のセミナーだった。さまざまな社会課題の解決にスポーツを通じて貢献する一般財団法人「グリーンスポーツアライアンス」日本法人の理事を同部OBが務めている縁があって、代表理事の澤井陽樹さんの話を聞く機会が設けられた。国外のスポーツ団体は、地域に愛され、持続可能な社会の一助になるために多様な取り組みを進めている。そんな澤田さんの話に、生徒たちは「自分たちに出来ることがあるのではないか、とのめり込んでいった」(石井監督)という。
 佐野高ラグビー部は全国高校大会出場6回の古豪だが、2011年度から中高一貫の男女共学校となった影響で男子の生徒数が減少。女子部員が増え、花園で行われる18歳以下の女子15人制東西対抗戦に同部から選手が出場するという嬉しいニュースはあるものの、今年の男子全国大会県予選は3校の合同チームで参加していた。この先も部は存続できるのか。そんな危機感を監督や多くのOBらが共有していた。
 そんな時、澤田さんから生徒たちが吸収したのは、「ラグビーだけがすべてではない」ということだった。学校のそばにある天満宮や、練習でお世話になる城山公園の掃除。今まで先輩から受け継ぎ、当たり前にやってきたことだって、地域のため、大きく言えば、地球のためになっている。そう考えれば、自分たちにできることっていくらでもあるんじゃないか。そんな気付きが、生徒たちの心を動かした。  もちろんラグビー部として「花園出場」は大きな夢であり、最大のモチベーションであることに変わりはない。県内には國學院栃木という全国的な強豪がそびえ立つが、石井監督は「諦めたわけではない」と言いきる。「むしろ、そのために国連の会議に出席した、とも考えています。佐野高ラグビー部は、気候変動や社会貢献について取り組み、地域に愛される活動をやっていくと世界に宣言したわけですから。そういうアイデンティティーが根付き、認知されれば、部員数も増えるし、強くなれる。きっと先につながると思うんです」
 Sustainable Development Goals―― 通称「SDGs」はいま、多くの企業や地方自治体、官庁が標語にする、はやり言葉だ。気候変動のほか、貧困や格差の是正、環境保全など、地球規模で広がる問題の解決をめざし、すべての国連加盟国が2030年までに取り組む行動計画を指している。「ジェンダー平等の実現」「安全なトイレと水を世界中に」など、「世界を変えるための17の目標」を掲げ、各国政府やさまざまな機関に協力を呼びかけている。スポーツ界でも、スポーツ庁がSDGs推進を政策に掲げるなど、一つの大きなテーマとなりつつある。
 では、具体的にSDGsで何をやればいいのか。理念倒れで終わるんじゃないか。そう訝しむ関係者は少なくない。ただ、個人的には、何の疑問もなく続けていた生活の中の一つ一つの行動を見直し、自分たちが住む地球が1ミリでもよくなるように考えて実際の行動につなげていくことは、ポジティブだし、意義があると思う。

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