国内 2018.12.16

いつでもいいスクラム、いい試合を。明大の武井日向、痛恨の1本を振り返る。

いつでもいいスクラム、いい試合を。明大の武井日向、痛恨の1本を振り返る。
突進する明大の武井日向。写真は12月2日の早大戦(撮影:松本かおり)
 明大ラグビー部は、加盟する関東大学対抗戦Aを5勝2敗の3位で終えた。「悪いメイジと、いいメイジという2面性があると思うんです」と話したのは、3年生部員の武井日向。身長170センチ、体重98キロと小柄ながら、突進とタックルで光るHOだ。
 春、夏の対戦時も制していた大学選手権9連覇中の帝京大を23−15で下しながら、慶大、早大には24−28、27−31とそれぞれ敗れた。
 いずれも僅差のスコアだが、勝ったゲームと負けたゲームとでは防御時の圧力やタックラーの起き上がりの速さなどに差があったような。帝京大陣営が「明大のFWのディフェンス」を称えていた一方、早大のある選手は「ディフェンスに関しては明大のプレッシャーは少なかった」と明かしていた。
 田中澄憲新監督のもとタフさを増していた名門校に、安定感という課題が残った。武井は続ける。
「常にいいメイジのラグビーをしないと、これから勝っていくことはできないです」
 話をしたのは12月2日の東京・秩父宮ラグビー場。早大戦に敗れた直後のことだ。「大きなところで言えば、コミュニケーション(が課題)」。例えば、キックを蹴った直後の防御(チェイス)を破られたシーンについてはこう悔やんだ。
「キックチェイスのところも、コミュニケーションが取れていなかったからああいう形になったのだと思います。練習中からコミュニケーション(の質)をもっと上げていかなきゃいけない。ビッグゲームではいかに落ち着いてプレーできるかが鍵になる。(戦前の)アップの時から、コミュニケーションは少ないなと感じていた。(試合前の)1週間の準備はしっかりしてきたのですが…。観客の多い、ここという試合で、チームとして焦りが出ている。それは今回や慶大戦で皆、感じたと思う。次は同じミスをしないようにしたい」
 本人が最も落胆したシーンは、後半11分頃にあった。
 この時の明大は13−17と4点差を追うなか、敵陣深くまで迫っていた。ペナルティキックを得ると、SHの福田健太主将は決まれば3点のペナルティゴールではなくスクラムを選択。
 明大は滝澤佳之コーチのもと、組み手のパワーをひとつに集約するスクラムを磨いていた。この午後も右PRの祝原涼介が、隣の武井とぴったり身体をつけたまま早大の最前列のつながりを崩していた。だから福田は、ここでもスクラムを押してそのままトライを決め、一気に逆転しようと考えていた。
 しかし明大は、失敗する。塊を故意に崩したとして、コラプシングというペナルティを取られる。早大が、賭けに勝ったからだ。
 後半11分の早大の賭け。それは「フロントから仕掛けてみよう」だった。
 スクラムはFW最前列の3人、中列の2人、最後列の3人による共同作業である。早大も互いのまとまりを確認したうえで相手に対抗しているが、勝負の分かれ目となりうるこのシーンでは部内の経典をあえて無視した格好。PRとHOだけで鋭く刺さり、明大を驚かせようとしたのだ。
 4年生の左PRの鶴川達彦が「自分たちの想定以上に低く組まないといけないことがわかったので、そう修正した」と振り返ったこのワンシーンについて、1年生で右PRの小林賢太はより具体的な証言を残す。
「それまでは後ろ(第2、3列)からの押上げをもらってヒットしようと話していたんですけど、あの時はHOの峨家(直也)さんが『フロントから仕掛けてみよう』と。落とせないスクラムだったし」
 
 早大が変化球を投じた結果、常に直球勝負の明大が得点機を逃したわけだ。
 武井は「ああいう形で流れを変えられたのは僕たちの責任。次に向けて修正したいと思います」。優勢だったプレーで笛を吹かれたのは本意ではなかろうが、怒りのベクトルは自分たちに向けて改善点を絞り出す。成長するためだ。
「まだまだレフリーとのコミュニケーション、対応ができなかった。集中力、意思統一が甘かったと思います。確かにあの時だけは、ヒットした後のチェイス(全体で足をかく動作)ができていなかった。試合を通して完璧なスクラムを組めていないのは自分たちの課題でもあった。自信はつけていたんですけど、まだまだだった。次につながるスクラムだったと思います」
 いつでも理想のスクラムを組んで、いつでも理想の試合をしたい。22年ぶりに大学日本一となるためだ。12月16日、大阪・キンチョウスタジアムで大学選手権3回戦に挑む(対 立命大)。
(文:向 風見也)

PICK UP