国内 2018.11.30

慶大に玄人好みのヒーロー候補 山本凱は「土壇場で落ち着いてプレー」を意識

慶大に玄人好みのヒーロー候補 山本凱は「土壇場で落ち着いてプレー」を意識
早大の選手にタックルする慶大7番の山本凱(撮影:松本かおり)
 18歳にして玄人好み。慶大ラグビー部1年の山本凱を熱烈に支持するファンや指導者、現役選手の声は、ツイッターのタイムライン上にあふれる。
 山本はルーキーながら、伝統校のレギュラーFLとして活躍する。前傾姿勢で突進する際は、横からタックルを食らっても下半身の動作が左右にぶれない。タックルの破壊力や球に絡みつく際の粘り腰でも、抜群の存在感を示す。昔の切り傷や擦り傷が折り重なったような、ラグビーマン然とした面構えも味わい深い。
 口を開けば、改めてこのスポーツに自信と元気が必要なのだと再確認させてくれる。
「1年生なんですけど、フィジカルでは全然やっていける。土壇場でしっかりと落ち着いてプレーをする。自分の最高のプレーを出せれば通用すると思うので、しっかりとやっていきたいです」
 身長177センチ、体重93キロ。国際舞台では決して大柄ではないが、慶應高3年時には高校日本代表として19歳以下(U19)アイルランド代表を破った。その際の活躍ぶりからU20日本代表に加われば、ワールドラグビーU20チャンピオンシップでU20ニュージーランド代表、U20オーストラリア代表などの強豪に対しても自然と牙を向いていた。大量失点を喫してしまっても、肉弾戦に肩や腕を差し込むことを止めない。向こうの攻めのリズムを狂わせた。
 どうしてそこまで身体をぶつけられるのか。どうして苦しいゲームでも力を発揮できるのか。東京の玉川学園小3年時に始まった競技生活を振り返り、「相手が大きくても、タックルは、できる。もともとコンタクトが好きで。高校に入ってしっかり身体を作ることで、いい感じになりました」。衝突が好きなのだから、衝突し続けるのは自然な流れだった。
 2018年11月23日、東京・秩父宮ラグビー場。中学から慶大の付属校に学んだ山本は、早大とおこなう伝統の早慶戦で背番号7をつける。前半から相手の球に腕を絡めて早大の反則を誘うなど、この日も抜群の働きぶりだった。
 11点差を追う後半5分頃には、敵陣10メートルエリア右端のラックから左に出たボールをもらって前進。折り返しと呼ばれる防御の圧力がきつい局面ながら、山本は目の前のタックラーを蹴散らした。一気に同22メートル線付近まで進んだ。
「1対1で行ける感じはしたんで」
 慶大はここから首尾よく展開し、細田隼都のトライなどで7−11と迫る。
 この日は公式入場者数を「19,197人」とするなか、攻守逆転からのトライを喫するなどして14−21で惜敗。山本は「周りの観客からのプレッシャーが凄かったです。人、多いなぁって」と悔やみ、今後の戦いをこう見据える。
「(大舞台は)最初は緊張したけど、やっているうちに慣れてきた。(0−11で終えた)前半は慶大のポテンシャルを出し切れなかったので、その原因を振り返って前半からいいアタックを。攻守が切り替わった後のディフェンスも、皆で反応してやっていけるようにしたいです」
 すっかり、主軸の風格を醸していた。
 慶大は早慶戦を落としたことで、加盟する関東大学対抗戦Aでの戦績を4勝2敗とした。12月1日の青山学院大との最終戦(埼玉・熊谷ラグビー場)を終えると、16日以降は大学選手権に参加する。
 日本一を目指す過程では、山本と近いポジションに外国人留学生を揃えるチームともぶつかりうる。支持率急上昇中の新人にとっては、見せ場が増えそうだ。
「大学選手権の相手も、ニュージーランドよりは戦いやすいと思う。アタックでもしっかりと前に出ていきたいという感じです」
 対戦校への敬意を前提にした、清々しい宣言だった。
(文:向 風見也)

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