国内 2018.11.25

初の大舞台は「0−108」の完敗… 北海道大ラグビー部95年目のタックル

初の大舞台は「0−108」の完敗… 北海道大ラグビー部95年目のタックル
懸命にディフェンスする伊藤智将キャプテン(左)と12番の岩田華依(撮影:Hiroaki.UENO)
 1924年創部の北海道大学ラグビー部が、歴史に大きな足跡を残した。北海道勢として初めて、全国大学選手権大会の舞台に立った。2018年11月24日、福岡県のミクニワールドスタジアム北九州でおこなわれた第55回大会の1回戦で、九州代表の福岡工業大学に挑戦。タックル、タックル、タックルを繰り返した80分間だった。0−108。完敗。痛みと悔しさは、きっと忘れないだろう。
 入学するのは難関な国立大学。マネージャー5人を含めた部員54人のなかで、高校時代に花園(全国高校ラグビー大会)を経験した人はわずかしかいない。
 そして、監督もいない。同部OBである西村裕一准教授が部長を務め、OBで構成される「北菱クラブ」のサポートを受けるが、練習やチーム運営は学生主体でおこなわれ、試合メンバーはリーダー陣が話し合って決める。練習環境は恵まれているとはいえないが、短時間集中、分析にも力を入れ、寒さが厳しい冬は広くはない屋内練習場で基礎を徹底的に磨いてきた。
 そして、挑んだ大学選手権。
 北大は、前に出るディフェンスで福工大を苦しめた。相手のトンガ人選手に対しては3人でタックルにいった。函館ラ・サール高校が2015年に花園初出場を遂げたときのメンバーで、身長172センチ、体重80キロのCTB岩田華依は、180センチ、108キロの福工大FLシオエリ・ヴァカラヒの激しい体当たりを受けても倒れず、観客がどよめいた。FL雜喉和寛、CTB深谷周平なども果敢に突き刺さった。
 しかし、1対1になったり、タックルがあまくなると大きくゲインされ、そこから苦しい展開になってしまった。
 SOの伊藤智将キャプテンは、「大学選手権に出るためにこの一年間練習してきたプレーは、東北・北海道では自信をつけることができていましたが、福岡工業大学さんにはまったく通用しなかった。とても大きな差を見せつけられました」と悔しさをかみしめた。「フィジカル、パスの技術、ラインスピード、キックの正確さ、ゲームを進めるうえでのクレバーさ…、すべての部分で上をいかれていると感じました」
 北大は試合の多くの時間を自陣でプレーした。そのほとんどがディフェンスだった。ボールを奪って攻めに転じても、福工大のプレッシャーにハンドリングエラーを多発した。前半35分、北大はPKから速攻を仕掛けたNO8大平雄利の突進で敵陣22メートルライン内に入ったが、福工大の壁は簡単には崩れない。まもなくボールを失った。後半7分、ゴール前5メートルのラインアウトとなり得点チャンスだったが、組んだモールは押し戻され、ならばと展開してボールを継続したものの、相手ディフェンスに徐々に後退し、ブレイクダウンでターンオーバーされたときはもう、ハーフウェイ付近だった。
 完敗。
 北海道大学ラグビー部が名古屋よりも西で試合をしたのは今回が初めてで、関西や九州にいるOBがたくさん応援に来てくれた。悔しい結果になったが、精いっぱいの奮闘に、観客席から温かい拍手が送られた。
 西村部長は戦いのあと、「これまで、東北代表に勝つということをひとつの目標としてやってきましたが、その先にこれだけ強い相手がいるということが今回わかりました。選手たちは、相手の強さ、今日の痛さというのを忘れないでほしい」と語った。
 ダーク・グリーンの若武者。ファイト、ファイト、ファイト、ファイト、ファイト。
 この日、背番号3をつけた4年生の高井浩哉は、後輩たちに「まだ伸びる余地はある」とエールを送る。
 中学、高校は帰宅部で、スポーツはほとんどしていなかったという高井。愛知県高校ラグビーの強豪・中部大学春日丘高校出身で、「学校全体でラグビーを応援していたので、どういうものか気になっていて。大学の新歓で参加してみて、チームの雰囲気がよかったというのもあってラグビー部に入部しました」。そして、4年間一所懸命やって大学選手権の舞台に立った。「光栄の至り。もちろん運がよかったとも思うんですけど、何より4年間あきらめずにやってきた達成感が大きいです。あきらめずにコツコツやれば、こういう試合に出してもらえるチャンスもあるし、いつかは実を結ぶかなと思います。大学からラグビーを始めた後輩だけじゃなくて、中高からやっている人たちも、まだ伸びる余地はあるということを伝えたいです」と語った。
 そして、ナイスタックルを連発した3年生の岩田も、この試合で胸中に強いものを残したひとりだ。
 感情を抑えるかのように、記者の問いに対して淡々と答えていたが、初めて大学選手権に出場した感想を訊かれると、とたんに涙があふれだした。
「初出場で、国立大学で、『よくがんばった』って言われるかもしれないですけど、それがとても悔しくて…。同じ土俵で見られたい…。勉強もできるからとか、周りはそう言うかもしれないですけど…、それが、すごく悔しいですね。ちゃんと戦って、それで評価されたいという思いがあります」
 その思いと経験は、来季に必ず活かしたい。
「個人個人は、いいタックルとか、キャリーとかありました。15対15では負けましたけど、少なからずやれた部分はあったと思うので、そこは磨いていきたいです」
 北海道大学ラグビー部、来年は創部95周年となる。

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