国内
2018.09.27
現役最年長出場・更新中。大野均、失う6キログラムの中身
接点付近での加速と低さは、一瞬、姿が「消える」よう(撮影:松本かおり=以下同)
ロック、大野均はきょうも背番号19を着けていた。
トップリーグ第4節でコカコーラレッドスパークスに29-14で勝った東芝ブレーブルーパス(9月22日/東京・秩父宮)、LO大野均はリザーブから、前半26分、ロス・ハイレットペティ選手の負傷で今季3度目の交代出場となった。
今年5月で40歳を迎えた日本代表キャッパ―(キャップ98は日本史上最多)。現役トップリーグの最年長出場選手は、いつも観客の大きな拍手でピッチに迎えられる。この日、その記録を40歳と140日に更新した(歴代4位に。現役選手では最高)。
「きょうは60分間だったので、6?、落ちていました」(大野)。いつもよりも長い出場時間に試合前105?の体重が、100?を割った。
先発出場はこれまでのところ2017年1月(2016年度TL第14節)が最後で、今季もリザーブ番号を着けている。
ロックというポジションは過酷だ。キックオフに始まる単独のコンタクト、密集戦の中核を担い、空中戦でもメインパートを務めるため、繰り返しのジャンプ動作まで入る消耗の連続。そんなチームのエンジンが最後まで機能するよう、大野は後半の後半に送り込まれ、ひたすら攻守の基盤を支える仕事をまっとうしてきた。この日は最後の20分ではなく、前半なかばからの投入だった。
「準備は常にしているので問題はありません。ただ、きょうは出て15分でバテました(笑)」(大野)
大学時代、ラグビーを始めた所属チームは東北地区大学リーグ「日大工学部」。トップレベルのプレーは東芝に入ってから全身で学んだ。長じて2015年、前回ワールドカップでは日本代表として南ア撃破のメンバーにもなった。
叩き上げかつ息の長いトップ選手の凄みは、生観戦だとより分かりやすい。
ゲーム中、大野だけを目で追ってみると、やはり常に走っている。プレータイムはほとんど動きっぱなしだ。しかし意外にも、そのスピードはで「矢のよう」…でもない。
元来スピードにも長けた選手だが、プレーとプレーの間の移動は、全力疾走とは程遠い。特に大野自身が触れていた前半の終わりは疲労の第一波が体を襲う頃。走る姿はしんどそうにも見えた。ただ、どんな時もプレーの、直前の動作がものすごく速かった。
「漫然と、そのままのスピードで相手と当たっても効果はないので。その瞬間は切り替えるようにしています」(大野)
攻撃では、味方のコンタクトに合わせて、後ろから体を杭のようにぶつけて押し込みサポートする。ディフェンスでは、密集近くに立って右手を挙げ、自分が守るゾーンを仲間に伝える動作が特徴的だ。オフサイドが解けた瞬間、極端に低い姿勢で相手の足元へ踏み込む(一瞬、姿が消えるかのよう)。
この動作がとても速い。
その後すぐに起き上がって、また移動。地面に寝ている時間がきわめて短い。
「何か特別なプレーができる選手じゃないですから。だから自分のやれることは、できるだけやらないと」(大野)
できるだけ、の意味は深い。効率よく、何度もプレーするための術を長年の経験で身につけている。
移動はそれなりのスピード。ただし、その走りには迷いがない。自分の決めた仕事にまっすぐ向かう軌道は良い意味で直線的だ。ボールの近くに行ってから、判断しかねてうろうろすることはない。「仕事」の起きる場所を始めから知っているかのように現場に直行。この感覚は「ハードワークしたい選手」にとって大きな財産だ。
ほぼ毎回、移動終了の直前で加速してタックルなどのタスクを済ませ、淡々と起き上がって、同時に走り出す。プレー中断の笛が鳴るまでそれを繰り返す。
結果、無数のタックル、ブレークダウン・ワークをこなすことになる。この意志と体力、判断力が、今もチームが離さない選手たる理由だろう。
1試合に6キロ落ちるという体重。体を削るように働くが、そのぶんチームメートの信頼は厚く、相手チームに与える脅威は確固たるものになる。
「まず、東芝でしっかり結果を残したい」
もっか リザーブの大野均は、あくまで自チームの背番号5を見据えてまた、立ち上がる。