国内 2018.09.05

開幕節で決勝弾。待望来日リアリーファノは映像チェックの日々。

開幕節で決勝弾。待望来日リアリーファノは映像チェックの日々。
ジャパンラグビートップリーグ初戦でMOMの活躍だったクリスチャン・リアリーファノ
(撮影:?塩隆)
 後半36分、NECのスティーブン・ドナルドがペナルティゴールを外す。
 ニュージーランド代表23キャップを誇る新加入SOがポールに嫌われたのは、これでこの日3度目だった。9月1日、東京・秩父宮ラグビー場。国内最高峰トップリーグのレッドカンファレンス初戦にあって、NECはここまで8−6とリードも攻めあぐねていた。
 ことが思い通りに運ばなかったのは、対する豊田自動織機も同じだった。特に前半は自陣から攻めるも、うまくエリアを取れず。もっとも終盤局面におけるドナルドのゴール失敗で、逆転勝利への道筋がよりクリアに見えたようだ。
「まず、相手陣に入って攻めよう」
 クリスチャン・リアリーファノが大声で叫んだのは、自陣22メートル線上からドロップアウトを蹴る時のこと。こちらも強豪のオーストラリア代表で19キャップを得てきたSOだ。緊迫の場面でも落ち着いている。
 弾道は敵陣10メートル線あたりまで飛び、落下地点でNECの選手が落球する。豊田自動織機はその場のスクラムを起点にじっくり、じっくりとボールを持ち続ける。
 そして10フェーズ目で相手の反則によりアドバンテージを得ると、敵陣10メートル線付近中央でリアリーファノがパスを呼ぶ。ドロップゴールを放つ。
 9−8。約1分後、ノーサイドの瞬間を迎える。大雨に降られたグラウンドの上で、殊勲の背番号10はマン・オブ・ザ・マッチを獲得した。
「こちらがボールをコントロールするうちに相手のペナルティがあればラッキーだと思っていましたが、実際にその通りになりました。アドバンテージが出たので、ドロップゴールを狙いました。それまでの間、味方FWの働きぶりが素晴らしかった。ボールが滑るなかでも、しっかりとキープしてくれた」
 身長180センチ、体重95キロの28歳。2007年から11年間、スーパーラグビーのブランビーズに在籍した。2016年はサントリーに入団予定も白血病を患う。だが、翌年にカムバック。困難を乗り越えた人格者として、世界中のラグビーファンに知られている。
 約7年前から誘われて今季加わった豊田自動織機でも、すでに仲間たちに好影響を与えている。共同主将でFLのスコット・フグリストーラーは、「彼の最大の特長は落ち着きです」。さらにSHの木村貴大は、リアリーファノと過ごす毎日をこう感謝する。
「練習中、試合中の指示の出し方、声のかけ方にも学ぶところが多いですが、フィールド外でも一緒に映像を見たりして、どう考えているかを話してくれる」
 
 ラグビーでは、グラウンドに立つ15人が同じビジョンを共有するのが吉とされる。司令塔団であるSHとSOの連係は、とりわけ勝負を左右しうる。しかし豊田自動織機に加入して3年目の木村は、リアリーファノほど綿密な対話を求めてきたSOはいなかったという。
「フィールドのなかだけじゃなくて、フィールドの外でも。インターナショナルの舞台でやり続けるって、そういうことなんだな、と思います」
 SHと一緒に試合や練習の映像を見ることについて、リアリーファノ本人は「そこは、僕が大事にしていることです」と強調する。
「一緒にチームをコントロールしていくには、互いに考えを共有したい。だからコミュニケーションを取ったり、一緒に映像を見たりしたいのです。概して9、10番でプレーする選手はのみ込みが早いので、その点はとても助かります」
 オープニングゲームで先発して59分間プレーした木村は、FLだった東福岡高時代に主将として高校日本一に輝いている。このチームでも次世代のリーダー候補と見られているだろう。いまいるチームを強くしたいという気持ちも、新しい助っ人と共有できている。
「もう、織機が大好きだなと思えます。彼らもきっと、織機が大好きなんだと思いますが」
 トップリーグに挑戦した6シーズンすべてで順位が2ケタ台だった豊田自動織機にあって、「(今後は)いいリーダーが日本人からも出てくることで、彼ら(外国人)に頼らずにやっていかなくちゃ」と木村。心強いリアリーファノらとともに、9月8日の第2節を見据える。日野を本拠地の愛知・ウェーブスタジアム刈谷に迎える。
(文:向 風見也)

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