コラム 2018.08.28

釜石復活のため、大阪で旗を振る。 吹田市立千里新田小学校校長 有明志郎

釜石復活のため、大阪で旗を振る。 吹田市立千里新田小学校校長 有明志郎
千里新田小の校長室で大漁旗を広げる有明志郎校長。
釜石シーウェイブスの大阪応援団団長でもある。
 2枚目の名刺。
 横文字ラグビー解説が光るゴリ副社長が、連載原稿を書いてましたなあ。
 有明志郎はんも2枚持ちや。
 主は「吹田市立千里新田小学校 校長」。すいた、って読んでなあ。日本代表HOの堀江翔太はん(パナソニック)の母校やねん。
 ほんで、別口のんは「釜石シーウェイブス 大阪応援団団長」。赤や青でカラフル仕上げ。
 20000円払って特注した大漁旗(富来旗=ふらいき)を振りまっせ。せやけど団員は、今年還暦を迎える校長ひとりなんやな。
 なんで、大阪で釜石シーウェイブス?
「僕らが現役のころは、ラグビーっていうたら釜石やったからね」
 前身の新日鉄釜石は、日本選手権と全国社会人大会(トップリーグの前身)で7連覇を達成した。始まったのは1978年度。校長は当時、神戸大のラグビー部員。「北の鉄人」と呼ばれたチームにあこがれがあった。
 それだけやない。震災後には、夏休みに被災地を夫婦して旅行するようになる。
「現地で飲み食いして、お金を落としたら、ほんのわずかやけど、復興のお手伝いになると思ってね」
 2016年には釜石を訪れた。練習試合を見に行ったが、スタンドが淋しかった。思わず、「手伝わせて下さい」と言うてしもてん。そっから応援人生がスタートや。
 この8月19日にも2泊3日で釜石に飛んだ。来年、ワールドカップで使われる釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアムの竣工記念や。ヤマハ発動機とのこけら落としの試合でも大漁旗を振ってきた。泊まりはもちろん、関係者が集まる「宝来館」やで。
 校長が大漁旗を振っているとテレビのナレーターは「漁師さんがやっています」。褐色の肌、くりっとした黒い目、白いひげ、そりゃあ、素人さんは間違えるわなあ。
「漁師やないんやけど、退職したら、ならなあかんのかなあ。せやけど、魚さばけへんしなあ。嫁はん、ついてきてくれるやろか」
 校長、そこ、まじめに考えるとこかい!
 ラグビーを始めたのは大学からや。
「友達のテツに『おまえ、ラグビーに向いてるでえ』って言われてん。性格的にも、みんなとワイワイやんのが好きやった」
 その言葉を真に受けたんやね。
 小中高は水泳一筋。
「身長体重は172センチの70キロや。逆三角形のええ体しとったんやで」
 知らんがな、そんなん。
 ポジションはPRを任された。
「僕はバックスがよかってんけど、マネージャーと走ったら負けてしもてん」
 まさに「陸(おか)に上がったカッパ」やね。せやけど、泳ぎのお蔭で背筋力は260キロ。初心者ながら姿勢を作って耐えられた。見立てが間違ってなかったテツは今、ホルモン焼き屋やなく、女子大の教授になっとる。
 大学卒業後、小学校教員として27年、教頭として5年。校長は3年目を迎えた。
 並行して吹田ラグビースクールの指導員も、四半世紀ほどつとめた。教え子には堀江はんや神戸製鋼CTBの重一生はんらがおる。
 座右の銘は「死ぬ気でやれ!死なんから!」
 昨年11月には、教育委員会に働きかけ、なんと、オールブラックスのラグビースクールを引っ張ってきた。校長はまだ生きてる。モットーを実践してはるわなあ。
 校長は初等教育を語るで。
「300円持って、コンビニで120円のおにぎりを買いました。おつりはいくら?」
 180円でっか。
「そう答えるやろ。そうやないねん」
 違いまんのんか。
「答えは0円、30円、80円。つまりどの硬貨をどんだけ持っていて、どう出したか、ということやねんな」
 なるほど。100円玉2枚かもしれんし、100円と50円玉を出したかもしれん、ちゅうこってすな。脳みそガチガチやったわ。
「頭を柔らかくするのが小学校の教育です、って僕は言うてんねんわ」
 グニャグニャ脳の校長は、釜石シーウェイブスへの愛をささやくで。
「応援しとったら、ええとこで負けてしまう。諦めたら、勝つ。阪神タイガースとそっくりなんよ。阪神が負けたら、ボロカス言うファンはいるけど、ここの人たちは『また、がんばりましょうね』って辛抱強い。マナーもちゃんとしてんねん。ラインアウトの時はボールが入るまで声出さへんし、グッズを背負って釜石から出て来たのに、試合会場で物品販売ができん、となると売りはらへん。大阪のオヤジのような強引さがひとつもない」
 ないもんに引かれる。不良がお嬢さまに思いを寄せるのと同じ構図やね。
 ただ残念なのは今年、トップチャレンジのリーグ戦7試合の関西開催があれへん。
「忙しいから、日帰りできるところでないとあかんねん。東は東京、西は広島くらいまでが手いっぱいかなあ。まあでも、できるだけ行くつもりにはしてる」
 希望はただひとつ。
「チームがずーっと維持されることやね」
 トップリーグ昇格も気持ちの中にはもちろんある。でも、それより存続、持続。1は100に変わるけど、0はどんな数字をかけても0のまんまや。だから、何があっても0=つぶさせたらあかんのよ。
 すべてを見通している校長は、これからも浪速の地から熱い応援を届けまっせえ。

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