国内 2018.06.02

岩手に根を張って。釜石シーウェイブスのプロップ佐々木和樹。

岩手に根を張って。釜石シーウェイブスのプロップ佐々木和樹。
NTTコム戦には3番で先発した。いま28歳。(撮影/多羅正崇)
 宮古工、釜石工、黒沢尻工――。
 1978年度から社会人選手権、日本選手権を7連覇した新日鐵釜石ラグビー部では、東北の工業高校出身者が力強い屋台骨だった。
 そんな新日鐵釜石ラグビー部の誇りを継ぎ、2001年4月に発足したクラブチーム「釜石シーウェイブス」にもそんな人材の伝統が今も息づいているようだ。
 釜石シーウェイブスの佐々木和樹は、岩手・盛岡工出身のプロップだ。
「セットプレーで自分の形が作れませんでした。やられてしまったので、これから修正していきたいと思います」
 佐々木がそう振り返ったのは、5月27日に宮城・弘進ゴム アスリートパーク仙台(仙台市陸上競技場)でおこなわれたNTTコミュニケーションズ戦。
 この試合は、岩手・釜石市が開催都市のひとつとなる2019年ワールドカップへ向けた『ラグビーフェスティバル in SENDAI』のメインイベントとして行われた。
 8月19日には釜石鵜住居復興スタジアム(仮称)のオープニングイベントが開かれ、釜石シーウェイブスはヤマハ発動機とこけら落としのメモリアルマッチを行う予定だ。
 釜石シーウェイブスの桜庭吉彦ゼネラルマネジャー兼監督は、試合前のトークイベントで「メインスタンドから見ると海を見渡せます。日本の中でも良いロケーションのスタジアムだと思います」と新スタジアムの魅力を語り、芝についても「スクラムで横ズレしにくい芝だと聞いています」と明かした。
 
 スクラム勝負に適した東北唯一の2019年ワールドカップ会場で、スクラムにこだわりを持つヤマハ発動機と真っ向勝負――。出場すれば岩手出身のプロップとしてはこの上ない晴れ舞台になるはずだ。
 PR佐々木は身長181センチ、体重110キロの28歳。
 今でこそスクラムを仕事場のひとつにしているが、高校卒業直後は当然のように社会人のスクラムに苦しんだ。プロップとしてスクラムで仕事をするまでには「2、3年はかかったと思います」。
 人生を釜石シーウェイブスと結びつけてくれたのは、2015年度まで盛岡工を率いた小笠原常雄監督。現役時代は新日鐵釜石でプレーしていた同監督に進路相談をした。
「岩手県内で就職を、という話をしたら、小笠原監督に『ラグビーはどうするんだ』と言われました。『続けたい』と言ったら、釜石でやってみないかということになりました。同じ岩手県でやっているチームでプレーができるということだったので、『やってやろう』という気持ちでした」
 実家を手伝いたいという想いもあった。
「実家が農家だったので、それを手伝いながら、という形が理想でした。地元に対する想いもあります」
 実家の農業を手伝いながら、岩手を根っこにラグビーもできる。釜石シーウェイブスは願ったり叶ったりの場所だった。
 今年の釜石シーウェイブスは入退団選手が多く、全選手の3分の1以上が入れ替わった。そんな今季のチームの理想像について、佐々木は個人的な想いを語った。
「一丸となって、苦しい時も楽しい時も分かち合えるようなチームになっていければいいと思います」
 苦しい時も楽しい時も分かち合う――。平然と語られた釜石のプロップの言葉は無骨で温かかった。
(文/多羅正崇)

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