コラム 2018.01.19

自分にベクトルを向ける コカ・コーラ NO8豊田将万

自分にベクトルを向ける コカ・コーラ NO8豊田将万
1月13日の宗像サニックス戦で西井利宏を止めにいくコカ・コーラの豊田将万(撮影:早浪章弘)
 豊田将万(まさかず)はメンバーを外れた。
 コカ・コーラ在籍9年目の前主将は、大切なシーズン最終戦をスタンドから観る。
 チームは1月20日、トップリーグ残留をかけた入替戦を三菱重工相模原と戦う。
 元日本代表NO8は実力で選に漏れた。
「正直、悔しいです。でも、この年になれば、じゃあ次(の試合)と考えられる。リザーブに入るジョーはリハビリを頑張っていました。僕はその姿を見ています。だから『おめでとう』と言ってあげたいし、同時に期待もしています。でも、こんなことは、5年前の自分なら絶対に考えられませんでした」
 最後は笑みを浮かべながら、4学年下のライバル、ジョセフ・トゥぺを応援する。
 今年32歳になる豊田には、達観と自他を俯瞰(ふかん)できる目が備わる。
「このチームは、体を張れる選手が生き残ってきました。今年の自分にはそこが足りなかったように思います」
 お手本には、7人制と15人制の両方で日本代表に選ばれたFL桑水流裕策や九州代表のLO川下修平を挙げた。
 人間的成長を遂げる豊田に、チームディレクターの臼井章広には感謝の念がある。
 1月13日、年間総合13位を目指したサニックスとの『福岡ダービー』を5−32の大差で落とした。試合後の円陣で臼井は怒る。
「前週とは全然違う。同じような準備をやってきているのに、もっとも大事な心の部分が、そこになかったんじゃあないのか」
 1月6日のNTTドコモ戦は19−14で勝ち切った。シーズン6勝を挙げた相手を1トライに抑える。自動降格がかかった15位決定戦出場を免れた。入替戦自体の出場は変わらないものの、その安ど感が試合に出る。
 臼井は振り返る。
「私が話し終わって、キャプテンが話をつごうとした時、豊田が『ちょっといいですか』と話し始めました」
 背番号19をつけた豊田は、後半30分に現主将の山下昂大と交替出場していた。
「ドコモの時はベクトルを自分たちに向けていた。でも外から見ていて、今回はしなきゃいけないことができていなかった。100%の気持ちでやっていない」
 2012年度から3シーズン主将をつとめた豊田の言葉は重みがある。
 臼井は言う。
「自分と同じ内容のことをプレーヤー目線でかぶせてくれました。ありがたかったです」
 豊田は東福岡から早稲田に進んだ。きっすいの『博多っ子』だ。
 今は189センチ、103キロの体格、それに運動神経も10代では抜けていた。
 高校では1年から公式戦出場。大学でも同様。1、3、4年と大学選手権(42、44、45回大会)を制した。最終学年は主将だった。
 その中で、高校、U19、日本A、セブンズ、フル代表とステージを上げていく。
 初めての代表戦は入社初年、2009年のアジア5か国対抗。5月23日のシンガポール戦だった。後半22分、主将だったNO8菊谷崇(キヤノン)に替わって出場する。45−15の勝利に貢献した。
「でも、結局JK(ジョン・カーワン ヘッドコーチ)の信頼は得られませんでした」
 代表キャップ9に伸ばすも、自身が留学などで2度生活したニュージーランドでのワールドカップ(2011年)には行けなかった。
 「早咲き」と言われた才能を踏まえて、豊田自身に思いはある。
「もう一度、ジャパンを目指す、そういうつもりでやっています。自分のころとは見違えるように強くなっていますから」
 今季は順位決定戦を含め、ここまで15試合中13に出場した。昨季は16の11。出場数自体は増えている。
 その原点は香椎浜ふ頭にあるコカ・コーラのグラウンドだ。『かしいヤングラガーズ』に入った4歳からこの芝生に慣れ親しむ。
「このチームでプレーしていなかったら、気持ちは切れていたでしょう。僕はこのグラウンドで育ちました。家も近くにあります。周りの人たちは今も期待してくれて、声をかけてくれる。だから、チームを強くしたいという一種勝手な使命感を持っているんです」
 チームへの愛着は人一倍ある。
 日々の生活では社員選手として、北部九州べンディング営業部に籍を置く。
「主にウチの自動販売機を置いてもらう営業をしています」
 家に帰れば2児の父。恵万(えま、2歳)、紗菜(せな、0歳)の娘たち、妻・由弥菜(ゆみな)に迎えられる。
 仕事や家庭は、自分にはままならない。そこでの人間性の磨き上げが、レギュラー再確保、代表復活に向けてのスパイスとなる。
 チームの来季を決定づける入替戦は、ミクニワールドスタジアム北九州で11時30分にキックオフされる。
「立場的には守る形にはなりますが、守ろうとして、守れるもんじゃありません。つかみに行く気持ちを忘れず、来シーズンもトップリーグでやるんだ、という思いをぶつけてもらいたい。圧倒してほしいです」
 チーム席から送る熱量は、試合に出る時となんら変わらない。
(文:鎮 勝也)

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