国内 2017.11.23

木曜日の葛藤。入替戦回避目指す日体大、対抗戦ラストマッチへ

木曜日の葛藤。入替戦回避目指す日体大、対抗戦ラストマッチへ
九州学院高出身の石田主将。1年時から出場機会を得て、
今年は指導陣とともに改革に取り組む(撮影:矢野寿明)
「やっと勝てた…」
 終了の瞬間、日体大・石田一貴主将は喜びよりも、ほっとした気持ちを感じていた。
 11月18日、横浜のニッパツ三ツ沢球技場で行われた関東大学対抗戦A。日体大が40−12で青学大を破って1勝5敗とした。これで両校の勝敗数はタイ。最終戦の対戦相手は、日体大が成蹊大、青学大は上位・慶應大となっており、「11.18」は両チームにとって下部リーグ入替戦回避の上でカギを握る大一番だった。
 そして日体大にとって青学大は、過去4シーズン一度も勝った経験がない相手。過去2年は、このカードで敗れたほうが入替戦に回ってきた「歴史」がある(3季前は対抗戦B所属で対戦なし)。
「青学に勝てる日が、やっと来た。非常にうれしい」と日体大・秋廣秀一ヘッドコーチ。
 日体大の主将、指導陣がともにポイントとして挙げたのがボールを動かすアタック、そしてタックルについてだった。
 SOを務める石田主将は1年時から出場機会を経て、チーム一の経験値を持つ。これまでの青学戦を振り返っての敗因は「自滅」だった。
「自分たちのミスで、苦しい試合にしてきた」
 ミスが多いのには、日体大が掲げるラグビースタイルのリスク、という一面もある。日体大と言えば「ランニングラグビー」。大学選手権の頂点に2度輝いたスピーディーで爽快なスタイルは、同部のアイデンティティとして共有されている。近年、ボールも人も走るゲームを目指してきたチームは、その半面で、キャッチ&パスを頻繁に使うだけにミスも多くなるジレンマに悩んできた。上位校との対戦ではそれを、強度の高いプレッシャーの中で遂行しなくてはならない。ミスが重なれば、勝負はままならない。負けが続けば、スタイルへの自信が揺らぐ悪循環。
 
 いま、その突破口を開こうとしているのが今年の4年生たち、先頭に立つのは石田主将だ。3シーズン前からヘッドコーチを務める秋廣氏は、今年、学生とのコミュニケーションが変わったという(2016年より監督には田沼広之が就任)。
「ラグビーの方向性の確認、練習計画の中身も学生と共有するようになった。学生の意向も取り入れた」
 指導陣とキャプテンが青学戦のキーに挙げたもう一つのポイント、タックルについては、主将の石田流が貫かれたシーズンでもある。いわばガチンコ重視だ。
「練習の中でフルコンタクトを避ける傾向があるように思えていた」
 流れの確認だからとフルのタックルをせず、ホールドで止める約束事の中での練習――「でも、実際の試合でミスが出るのは、コンタクトに対してもろさがあるということ。そこを変えないと、変わらないと思う」
 日体大がタックルを避けてきたわけではない。局面、局面ではケガ人を出さないための苦肉の策だった。
「今年はコンタクトを『普通』にしようとして、実際、やはりケガ人は出ました。でも、これに慣れなくちゃ、結局試合で勝てないんです。実は、僕自身もケガしました。僕も慣れてなかったんだと思います」
 青学戦の2日前にも、石田主将が「タックルあり」を貫く場面があった。秋廣HCが振り返る。
「展開の確認なので、ホールドで…と言ったら、石田が、いや、普通にタックルありでと言ってきた。しんどいほう、痛いほうをわざわざ伝えてくる――キャプテンにこういうことを言われたことは、近年なかった」(秋廣HC)
「試合の48時間前からはトップではやらない(フルコンタクトはしない)というのが(指導陣の)原則。僕は、『その時点で負けてる』と感じてしまう。特に今週は短い時間でもトップでやるべきだと思った」(石田主将)
「敗れた明治戦(7−101)のタックル成功率は47%という低さ。青学戦まで2週間で80%達成を目指した。確かに、タックルはこの期間にフォーカスしたポイントでした」(秋廣HC)
 青学戦は、指導陣からすればある意味、1年で一番重要な試合。最もリスクを排して臨みたかった2日間だったはずだ。しかしあえてキャプテンを尊重した。
 石田主将が、春夏秋を越えて曲げなかった意志。
 指導陣が得た懐の深さ。
 今季最少失点となった青学戦は、今季の結晶の1つだ。
 グループ最終戦の結果次第では入替戦の可能性も残る段階だが、少なくとも今季、日体大は、「ボールを動かせば、上位校相手にもやれる」という感覚を、確信に近いものに高めることができた。選手と大人の間の「溝」の話なら、どの年代のどんなレベルのチームにだってある日常だ。健志台では両者がまず互いに耳を傾け、相手の顔を見て言うべきことを伝え合う基盤を作った。その一歩の踏み込みの勇気と、ついてくる現実を乗り越えようと足を掻き続けるドライブ力(りょく)は、ラグビーチームとして誇れることではないだろうか。
 青学戦勝利後も、石田主将の表情が硬い。
「いえ、ここまで今年ずっと負け続けてるので。終わってみないと何とも言えません。スミマセン」
 11月25日土曜、江戸川区陸上競技場の成蹊戦まで、あと2日。
(文:成見宏樹)

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