セブンズ 2017.07.05

メイジ、コウベに勝った。岐阜県ラグビー界の雄、朝日大のチームスピリット。

メイジ、コウベに勝った。岐阜県ラグビー界の雄、朝日大のチームスピリット。
ジャパンセブンズでは神戸製鋼戦で劇的勝利。写真は堀口陽平主将。(撮影/松本かおり)
 吉川充(よしかわ・みつる)監督は言った。
「久々に心臓がドキドキしました」
 入魂のチーム作りを長年続けているから、教え子たちの大仕事に心が震えた。
 朝日大学、明治大学と神戸製鋼を破る。7月2日、秩父宮ラグビー場に刻まれた新たな歴史である。
 東海学生セブンズの優勝チームとして『なの花薬局ジャパンセブンズ』に出場した同大学。大学ラグビーとトップリーグの名門チームと同じプールDに入った。伝統ある紫紺と真紅のジャージーとの争いに、分の悪い戦いになるかと思われたけれど、全勝で同組1位となったのは胸に『ASAHI』の青×黒のシャツだった。
 カップ(1〜8位)トーナメント準々決勝では福岡工大に競り負け、プレート(5位〜8位)準決勝でも大東大に敗れて上位進出はならなかったが、大きな財産を得る一日を聖地で過ごした。
 初戦の明大戦、いい滑り出しだった。
 2つのトライを奪い14-0とリード。その後反撃を受け、後半4分には14-17と逆転されるも、その直後に高い集中力で2トライを奪う。最終スコアは28-22だった。
 神戸製鋼戦は粘りの攻防で勝った。
 5-7で迎えた後半7分。自陣深くから攻めるも、相手の圧力に前に出られないでいた。絶体絶命。しかし、誰も諦めていなかった。
 地面にボールが転がったときだった。上里貴一(うえざと・きいち/名護/3年)が咄嗟に足を出す。蹴られたボールは右に大きく放物線を描き、外を走る堀口陽平(ほりぐち・ようへい/若狭東/4年)の胸にスッポリ入った。
 殊勲者となる背番号10は、そのままトライラインまでロングラン。逆転。
 スタンドは大きく沸いた(12-7)。
 1978年創部の同ラグビー部。2001年からチームの指導にあたる吉川監督(当時はヘッドコーチ)のもと着実に力を蓄え、近年は全国大学選手権の常連となっている。
 2012年度シーズン、同選手権の出場枠が広がったことを機に初めて晴れ舞台に立つ。同年こそ勝利に届かずファーストステージ敗退も、翌年からは3つの地方リーグ代表の中のトップとなり、2大会連続でセカンドステージへ進出。さらに2014年大会ではセカンドステージで勝ち点を記録して同ステージの最下位を逃れたため、翌年はいきなりセカンドステージからの登場となる前進も見せた。
 ただ、昨年の大学選手権では2回戦で福岡工業大学に敗れ(36-38)、地方リーグ同士の戦いの先には行けなかった。そんな悔しいシーズンを終えて迎えた今季だったから、今回の快挙はチームにとって大きい。
 吉川監督は「昨年厳しいシーズンを過ごし、今季を迎えました。地道に積み上げてきたことが形になっていくことを学生たちが実感し(6月11日の朝日大学ラグビー祭では招待した中央大学にAチーム/15人制が31-26で勝つのスコアで勝利)、だいぶ粘り強くなってきたな、と思っていたんです」と部員たちを愛でた。
 2度のアップセット後に福工大、大東大に敗れたことについては、「(福工大には)勝ち急いだし、(毎年大学選手権で戦う相手として)意識しすぎた」と反省したものの、「まだそこまでの力しかないということが分かったことも含め、素晴らしい大会を経験させてもらった」と今後につながる時間だったことを強調し、岐阜へ戻った。
 今大会のセブンズチームを率いた堀口主将は、神戸製鋼戦での殊勲のトライを「みんなの気持ちが通じ合っていたから生まれた」と振り返った。しかし、その後の失速はいただけない。「いつもと違うことをしたらダメ」と頭をかいた。
「福工大には昨年の大学選手権で負けたので意識しすぎました。最初にリードして(15-0)勢いがあったのに、個々が好きなことをやってしまって(27-28で敗戦)…」
 大東大にも0-47と大敗し、続けざまに苦いレッスンを受けて戦いを終えた。しかし選手たちは下を向くことなく、強豪を倒して得た自信も持ち帰る。
「やってきたことを意識してやれたら結果も出ました。決まったディフェンスコールに反応して全員で動けたら守れた。攻撃時にはパス&サポートを徹底しました」(堀口)
 多くのチームがこの大会を最後に今季のセブンズシーズンを終えるが、朝日大は違う。岐阜県からの要請を受け、同チームが国体出場を狙う岐阜県選抜となるからだ。
 7月8日、9日と北海道で開催されるピリカモシリセブンズにも岐阜チームとして出場して強化を続け、8月19日、20日に開催されるミニ国体(東海ブロック大会)へ。そのため、チームを分けて夏合宿もおこなう予定だ。
 15人制の強化を考えれば得策ではないかもしれないが、吉川監督は「新たなチャレンジ」と話す。社会人チームの灯は、わずかばかり。それが同県ラグビー界の現状だ。もう一度それを大きくする作業は続けられているが、簡単ではない。だから数年間は、自分たちが岐阜県ラグビーが国体へ進出する使命を担い、来るべき時が訪れたらバトンを渡そうと思っている。
 ジャパンセブンズがおこなわれた日にはギフセブンズも開催され、地元に残ったメンバーで構成した2チームが優勝と3位の成績を残した。国体への挑戦も、ローカル大会で頂点に立つのも、岐阜県ラグビー界を背負って立つ存在としての自覚と矜持があるからこその結果だろう。
 メイジに勝った。コウベにも。
 セブンズとはいえその事実は、殊勲者たちの歩む先を明るくするだけでなく、岐阜のラグビーマンたちの未来も照らす。自分たちのためだけでない行動が、これからの朝日をもっと輝かせることになる。

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