海外 2017.03.26

ジャパンのためにより、勝利を。サンウルブズ、もうひとつのホームの苛立ち。

ジャパンのためにより、勝利を。サンウルブズ、もうひとつのホームの苛立ち。
成長を続けるWTB江見翔太。しかしチームは勝利に届かない。
(撮影:松本かおり)
 目の前の勝利がすべてか否か。勝敗はそこで分かれた。
 トライ集に出てきそうなものばかりだった4トライ。そのうち3トライを前半25分までに集めたサンウルブズがゲームをエキサイティングにした。勝つためにボールを保持し続けたストーマーズが白星を手にしたことだけを喜んだ。3月25日、スーパーラグビー第5節。シンガポールでおこなわれたストーマーズ戦に31-44と敗れたサンウルブズはこれで開幕5連敗となった。
 抜群の滑り出しを見せても勝てぬ展開に、当事者たちも「勝てないのは何かが足りないということ。しかし、それがまだ何かはハッキリしない」(FL金正奎)と歯切れが悪かった。
 前半に奪ったサンウルブズの3トライに『ホーム』のファンは喜んだ。
 0-3と先制された後の前半6分過ぎ、ターンオーバーの応酬から防御を切り裂き、CTBデレック・カーペンターが走り切った。
 10-10と同点で迎えた21分過ぎには、スクラムで押されても防御でボールを取り返すとすぐに攻め、ボールを散らす。最後はWTB江見翔太が右スミに飛び込んだ。
 そして22分。LOサム・ワイクスのラインブレイクからLOリアキ・モリにつないでゴールポスト横へ押さえた。どのトライも休まず動き、攻守の切り替えに多くが呼応して奪ったものだった。
 開幕から5連戦。ツアーに出て3週間以上の時間をともにして、チームの結束は高まった。多くの選手が、同じ絵を頭に描いてプレーする頻度も。その成果が出た。
 後半2分にはスクラムから仕掛け、CTBカーペンターが自身この日2つめのトライ。31-20とリードして後半10分過ぎまでゲームが進んだときは、スタジアムには『私たちのチーム』の今季初勝利を期待する空気が高まった。しかしストーマーズは、残り30分弱で4トライを奪って逆転勝利を収める。後半20分までに2トライを返して逆転し、ラスト5分で2トライを重ねて突き放した。
「すべてにおいてうまくいった」
 サンウルブズのフィロ・ティアティア ヘッドコーチは、序盤をそう振り返った。
「ボールの動かし方を変えたのがハマった」
 今季初めて先発で10番を背負ったSO小倉順平も試合に入りに満足し、FL金は「(シーズン前の)準備段階からやってきたことを出せた」と、自分たちのスタイルに手応えを感じた。
 しかし、試合の各局面を切り取ったレビューについてはそれぞれに的確も、敗因の追求となると途端に曖昧になる。徹底してFWで攻めてきたストーマーズへの対処はできなかったか。彼らをたびたび得点射程圏内に入れた原因はどこに。
 前半はうまくいったキックチェイスがうまくいかなくなった。
 最初はアタックもディフェンスもふたりセットで動けていたのに、それができなくなっていった。
 そんな言葉がいくつか聞こえて来るのだが、最終的には指揮官の「進歩はしている。そこを嬉しく思う」の言葉に勝敗の分岐点がうやむやになる。
 サンウルブズは日本代表の進化を支えるチームだ。ゴールはジャパンが2019年のワールドカップで成功すること。それが大義名分となって、実は『勝負力』の成長が停滞しているのではないか。
 自分たちのスタイルを確立し、世界レベルのコンタクトを体感する場としては、スーパーラグビーの舞台は予想していた通りの機会だ。ただ、目の前にある勝利をつかみ切る感覚、思考力、それを実現する(テクニックを含む)実行力を毎試合求めないと、結局はゴールには届かない。
 ジャパンのために。
 それをいつも頭のスミに置いて試合を見つめる日本のファンは、敗戦にも前進した部分に光を当てる視線でサンウルブズを見つめる。しかし、シンガポールの人たちにとっては、狼軍団がスーパーラグビーの舞台で躍動してくれることがすべて。だから、試合後の記者会見場では地元メディアの言葉が指揮官に突き刺さった。
「毎回、同じような展開で負ける。最後にやられる理由は技術? 体力? メンタル? いったい何なのでしょう?」
「キャプテンが怪我でベンチに下がってから、チームはビジョンまで失ったように見えました」
 勝利のために。そこを追求してこそ成長するのでは。
 この日スタンドを訪れたのは7142人と寂しかった。3週間前に同地でおこなわれたキングズ戦より、さらに減った。
 シンガポールのファンはしびれを切らしそうなのかもしれない。
 

PICK UP