海外 2016.12.13

「#獲れ」は知らないけど「オファー待ってる」。カーク、サンウルブズ2季目もベスト尽くす!

「#獲れ」は知らないけど「オファー待ってる」。カーク、サンウルブズ2季目もベスト尽くす!
サンウルブズ2017スコッド発表会見で意気込みを語るエドワード・カーク(撮影:松本かおり)
「#エドワードカーク獲れ」
 2016年の春から夏にかけ、短文投稿サイト「ツイッター」で広まったハッシュタグだ。日本のラグビーファンが、国内最高峰トップリーグのクラブにエドワード・カークの獲得を勧めるために拡散したものである。
 国際リーグのスーパーラグビーに今年度から初参戦した日本のサンウルブズにあって、このカークは獅子奮迅の活躍をしていた。わずか1勝と苦しむなか、FL、NO8として全15試合に登場。チーム最多の146タックルを放ち、密集へ腕と頭をねじ込んだ。身長191センチ、体重108キロと決して小柄ではないが、東洋人の好む低い姿勢でのプレーを重ねた。
 練習場で出待ちするファンに自ら話しかける気質もあり、この25歳は愛好家たちの支持率を高めていた。その成果のひとつが、「#エドワードカーク獲れ」だった。もっとも、カークがサンウルブズで認知された頃、トップリーグの各クラブは2016年度の選手補強をほぼ終了させていた。
「今季のトップリーグ入りが叶わなかったことは、私にとってタイミングの問題でした。昨季は、トップリーグのチームへ私から特別なアプローチをしなかった。ただそんななか、各チームの選手獲得のタイミングが終わっていた。そのあたりのことを、もっと知っておくべきだったとも思います」
 こう語るのは、久々に来日したカークである。
 12月12日、サンウルブズが発足2シーズン目となる2017年度のスコッド36名を発表した。都内でおこなわれた記者会見の後、2季連続でのサンウルブズ加入を決めたカークが意志を明かす。人呼んで「カーキー」。あたりを囲む東洋の記者団に顔見知りを見つけると、順にウインクや会釈を重ねる。
「あれは、いまからちょうど1年前だったと思います。きょうのような形で、サンウルブズが船出する記者会見がありました。この先のサンウルブズがどうなるのか、誰もわからない状態だったと思います。あの時、私も1人で日本にやって来て、参加しました」
 ここで思い返すのは、雌伏期間でのことだ。2014年度まで故郷であるブリスベンのレッズでプレーも、怪我の影響で2015年度の契約を勝ち取れず。心機一転、現場復帰の場所に選んだのがサンウルブズだった。
 狼集団への忠誠心は、不変だった。
「2016年、サンウルブズが私にプレーをする機会を与えてくれた。怪我で苦しんだ前年を経て、もう1回、大好きなラグビーをエンジョイできた。戻ってこない理由はなかったです。今季、トップリーグでプレーできなかったことは残念でしたが、それを差し引いても日本でプレーしたかった」
 
 充実の2016年度を終えると、地元で過ごした。「帰ってからの2週間は、ほぼほぼ寝ていたと言っても過言ではありません」。ジムでのセッション。ボクササイズ。かつて在籍したクラブ、イーストラグビーユニオンでのトレーニング…。それと同時に、友との語らいが重なったのだろう。この日の会見で一緒だった大野均から「カーキーのお腹が…」とからかわれたものだ。
 当の本人は、2月からのプレシーズンキャンプへ着々と準備を重ねているという。
「シーズン終了後すぐ、私はオーストラリアへ帰ってゆっくりと過ごしていました。一部報道で『母国で新しいチームを探すためだ』と伝えられましたが、その記事は私にとっては残念なものでした。オーストラリアで最初にしていたことは、サンウルブズのオファーを待つことでした。去年は、それ以前の怪我のこともあり、ただラグビーの現場へ戻ってくるという感覚が強かった。ただ、今年はそうではない。もう1歩成長して、このスコッドのなかで自分のポジションを固める。より大変になると思っていますが、そうしていきたいと思っています」
 母国で静養する一方、実は、来季のトップリーグ参画のためにも動いていた。
 都内チームの練習に参加し、存在感を発揮。その組織の長は「彼が日本での練習環境がないと言っていたので、その場を与えた」と言葉を選んだが、その処遇は翌年度以降の編成とも無関係ではなかろう。その時期にトップリーグの試合会場を訪れた「カーキー」は、気さくに来場者との写真撮影に応じていた。
「いまの日本ラグビー界のことも、よく見ています。一方では海外ラグビー、一方では国内ラグビーがある。大学からいい選手もトップリーグへ上がってくるなか、私もトップリーグのどこかでポジションを獲得できれば、より成長できる。私はまだ若い。たくさんのオファーを待っています」
 2017年度のサンウルブズ入りを決め、トップリーグ参戦へも具体的に動いている。そんなブリスベンの切り込み隊長が次に期待されるのは、日本代表でのプレーだろう。
 ワールドラグビーの定めによると、海外の国籍を持つ選手でも原則的に「他国代表歴ゼロ」「当該国への3年以上連続の居住」で代表資格取得が認められる。もっとも本人が指摘するように、「それとは別に各国ごとの代表資格に関する方針がある」。実はカークには、20歳以下オーストラリア代表、同国7人制代表への選出歴がある。
「昔の話ですが、代表資格という点では、オーストラリアに縛られた状態です」
 オーストラリア協会にジャパン入りが認められない場合も、「日本国籍取得後、7人制日本代表としてセブンズワールドシリーズに4戦以上出場」など、ルールに則った資格取得への可能性は存在する。当の本人も「環境が許せば積極的に手を挙げたい」と、ジャパン入りに意欲を示している。
 ただ、「もし代表資格取得が叶わなくても、私はスーパーラグビーのサンウルブズでプレーしたい」とも語る。第一に考えるのは、日本のラグビー界に自らの価値を示すことだ。
「個々の置かれた状況がどうであれ、与えられる機会は一緒です。どれだけ練習でやる気を示すか、プレーへの姿勢をどう見せるか…。そこに、かかってくると思います。昨季も、私はこの点を重視していました。日本でプレーしたことが、私のラグビー観に新しい角度を与えてくれた。だから、私はここに立っています。サンウルブズのシーズンが始まる前に日本を1人で旅をしましたが、その時、日本の仕組みが好きだと感じました。私はいろいろなものにきちっとし過ぎていて、パートナーにも嫌がられるぐらいです。それが日本のカルチャーにも合っているかと思います」
 例のハッシュタグの存在を「知らなかった」というカーク。スーパーラグビーで歴史の浅いチームの創設メンバーとして、ただただ「逆境に置かれても後退はしない」と誓うのである。
(文:向 風見也)

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