国内 2016.12.04

約2か月ぶり復帰のパナソニック稲垣啓太、最初の練習後で話したこととは。

約2か月ぶり復帰のパナソニック稲垣啓太、最初の練習後で話したこととは。
パナソニックの稲垣啓太。今年10月、離脱する前の写真(撮影:松本かおり)
 ラグビー日本代表としてワールドカップイングランド大会に出場したパナソニックの稲垣啓太が、2か月弱ぶりに実戦復帰を果たす。12月4日、群馬・太田市陸上競技場での国内最高峰トップリーグ第10節に先発し、クボタと激突する。
「外からラグビーを観る機会も含め、いい時間でした」
 疲れていた。ボロボロだった。昨秋のワールドカップが終わるやトップリーグで額を切りながらもプレーし続け、2月からは自身2季目のスーパーラグビーへサンウルブズの一員として参戦。右足の故障のため一時離脱も、5月に復帰してからはシーズン終了まで戦い抜いた。
 その間には6月の日本代表ツアーにも参戦し、サンウルブズを離れると再びトップリーグへ参画。「コンディションを整えるのが仕事なんで」と言いながら、肘などの痛みとも戦い続けてきた。
 臨界点が訪れたのは、今年10月。NECを51−26と下した8日のトップリーグ第6節(埼玉・熊谷市陸上競技場)を最後に、戦列を離れる。
 相手を向こう側へ押し込む突進とタックルと仕事量に秀でた身長186センチ、体重116キロの26歳。世界を知る貴重な戦力として、ジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチ率いる日本代表でもプレーを熱望されていた。しかしこちらでも、10月下旬の第2回合宿を途中離脱。「…無理です」。指揮官との直接対話でそう申し出て、参加辞退を決めたという。
 以後はひたすら、ジムワークと走り込みなどに時間を費やした。日本代表が11月におこなったテストマッチ(国際間の真剣勝負)も、いち観戦者として見つめた。
 いまだって万全ではなさそうだが、ある程度の英気なら養ったか。
「身体作りしかしていないです。逆に、いままでこういうこと(過ごし方)はできなかった。年中、試合をしていたので。(やったことは)ジムワーク、自分のラグビーを見つめ直すこと…。代表の試合からも離れて、自分のことができるな、という感じで」
 全体練習へは、11月30日に本格復帰した。この日は堀江翔太ら日本代表組にとっても合流初日とあって、プレーとプレーの合間での連携が滑らかにならない。結果的にパスが乱れるなどし、流れが途切れる。
「久々に合わせているんだから、ミスが起きるのはしょうがない。でも、その後、ね」
 そこでひと呼吸を置いて仲間に諭したのが、稲垣だった。ボールが後方にそれたらすぐに戻るなど、実際のゲームをイメージした動きをすべきという意味か。
 稲垣は開幕前から、自らのリーダーシップ醸成を目指していた。発言した際の心境を問われ、こう説明する。
「代表などから何人もの人が帰って来て、いままでコミュニケーションを取っていない人同士でコミュニケーションを取る。それでは当然、ミスも起こるんです。でも、せめてその後に…という、ミスをしたなりの何かがなかった。本当は、あまりああいうことは言いたくないんです。(合流して間もない)いまは人を動かすよりも、自分で動きながらいろいろとチェックしたい点もあるので。でも、そういう(指摘をする)習慣がついていることは、自分が(リーダーとして)成長できている、ということなんじゃないでしょうか」
 何のためにラグビーをやっているのか、と問われれば、いつだって「自分のため。自分の価値を高めるため」と応じる。アスリートとしての「価値」を保ち、高めるためには、11月の休息も必要だった。2季目のサンウルブズは12月中旬にスコッドを発表。ここに参画するかどうかについて、稲垣は態度を保留している。もし、国内外からオファーを受けているのだとしたら、1つひとつを真摯に吟味するだろう。
 いまはまず、パナソニックの背番号1兼軌道修正役を全うする。
(文:向 風見也)

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