コラム 2016.11.22

関西学院大の敗戦タッチキックについて。

関西学院大の敗戦タッチキックについて。
摂南大に後半2トライを奪われ、点差を広げられた関西学院大
 11月20日の関西大学ラグビーAリーグ、関西学院大対摂南大戦で、21−26と負けている関西学院大が、タッチにボールを蹴り出し、試合を終わらせた。
 これを「珍事」として在阪の一部スポーツ新聞が報道した。
 これは「珍事」でも、「敢闘精神の欠如」や「敗退行為」でもない。
 理由はただ1点のみ。入替戦に出場しないための現実に即したプレーだった。
 問題のシーンはロスタイムに入った後半45分に起こる。関西学院大はその直前、摂南大ゴール前に迫った。しかし、逆襲を受け、ハーフウェイラインを越え自陣に押し戻されてしまう。
 この段階で、清水晶大主将は攻防の位置や試合の流れなどを読み取り、同点や一発逆転を断念。タッチキックを選択して、21−26の5点差負けで試合を終わらせた。
 関西学院大は後半27分過ぎから攻めに攻めた。同30分、清水主将は得意のパスダミーからのカットインでトライも挙げている。
 試合終了寸前まで攻め込んでいたことを考え合わせれば、「敢闘精神の欠如」や「敗退行為」は当てはまらない。
 清水主将は上気した赤い顔から汗をしたたらせていた。試合終了直後に質問する。
「よく冷静に判断できたね」
「ここで相手に得点をさせれば、終わりやな、と思いました。インカム(ベンチ)からもそのことを言われていましたし」
 関西リーグは関西学院大、摂南大、関西大が入替戦出場を伴う最下位争いをしている。この日の試合で関西学院大が勝てなかったため、1勝で3すくみとなった。
 3チームがこのまま白星を追加できなければ、リーグ戦規約により、3チーム間の直接対決の得失点差で順位が決まる。
 その場合、6位は+4の関西学院大、入替戦出場となる7、8位は+3の摂南大、−7の関西大となる。
◆3チームの今季の対戦成績◆
9月25日 関西学院大 19−10 関西大
10月9日 関西大 26−24 摂南大
11月20日 摂南大 26−21 関西学院大
 関西学院大が摂南大に1点でもポイントを許していれば、その順位は逆転していた。清水主将の一蹴りによって、関西学院大は現段階で入替戦を逃れる6位確保の可能性を高めた。
 1勝5敗の関西学院大は近畿大、摂南大は京都産業大、1勝4敗の関西大は立命館大と天理大の試合を残す。
 すべての対戦相手は3校にとって今季の成績からいけば、力上位である。可能性で見れば、勝利よりも敗北がウエイトを占める。そのことを考え、清水主将はベンチとともに現実的な判断を下した。
 チームとして、「この一戦」は大切である。しかし、リーグ戦7試合全体をトータルで見る長期的ビジョンもまた必要である。最終的にそれがものを言うことがある。
 入替戦は甘くない。リーグ戦における7、8位が決定した段階でチームの勢いは完全に弱まる。一方で、上がる意志を持つ下位リーグチームはその推進力がさらに強まる。
 関西学院大は昨年最下位8位。2003年からAリーグに再昇格して13年ぶりに入替戦を戦った(56−19 大阪体育大)。その時、清水主将はCTBとして出場している。
 もしBリーグに落ちれば、チームとしてのダメージは図り知れない。
 士気は著しく低下する。進学先として不人気となり、スポーツ推薦枠の削減も話題に上がる。大学側から下りる部予算の削減もありうる。ラグビーを絡めた就職にも差し障りが出てくる可能性も否めない。
 それらを避ける一番の方法は「出ない」ということなのだ。
 関西学院大は勝てなかった。しかし、負けるにしても最低限の責任は果たした。
 元々、関西学院大は学生主体のチームであるが、今季は学生と指導者の間で練習方針などを巡って内紛が起こった。OB会裁定により大賀宏輝監督はシーズン開幕からベンチを外れた。監督代行は大石修GMがつとめている。大賀監督の今季中の復帰はない。
 監督の任命やチームを動揺させた責任はOB会にある。もちろん、学生のラグビーへの取り組みやOBを含めた他者への態度にも問題はある。現在の大学ラグビーは学生主導で勝ち抜けるほど単純ではない。よい指導者が必要なのは、昨年のワールドカップで日本代表を3勝させたエディー・ジョーンズ ヘッドコーチを見てもわかる通りだ。
 関西学院大が責められるとすれば、このような順位に落としてしまったチームマネジメントそのものであり、一部マスコミが騒ぐ清水主将の敗戦タッチキックではない。
 今回は現実的に見て、関西学院大は申し分のない選択をした。
 この結果が、入替戦回避につながれば、チーム、そして清水主将にとって、よろこばしいことに違いない。
(文:鎮 勝也)

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