国内 2016.09.27

ラガッツで勝っていく。堀卓馬の誓い。

ラガッツで勝っていく。堀卓馬の誓い。
開幕から3連敗となったセコム。しかし堀卓馬ら選手の気持ちは折れていない。(撮影/松本かおり)
 雨が降っていた。スタンドはガラガラだった。
 自分の知る秩父宮ラグビー場の光景とは大きく違うけれど、芝の上を仲間と走る充実を感じてプレーした。0-62の大敗も、そこにいられる幸せがあった。
 9月24日におこなわれたトップイーストDiv.1の三菱重工相模原×セコム。後半10分頃だった。右タッチライン際を青×白ジャージーの背番号5が疾走した。187cm、111kgと立派な体躯のLO堀卓馬(ほり・たくま)だ。今季からセコムラガッツに加わっている。
 昨年まではNECグリーンロケッツのフロントローで、トップリーグが戦いの舞台だった堀にとって、2015年度のシーズンオフは辛いものだった。NECでの3年目を終えたとき、新しいシーズンの構想に入っていないことを伝えられた。まだ25歳。もっともっとラグビーを続けたいのに。
 我孫子で過ごした3年は、自分なりに精一杯過ごしたつもりだった。しかし、戦力外宣告を受けた後に自分の歩んできた道を振り返ると、怪我に悩まされた時期があったとはいえ必死さが足りなかった。
「もっとやれた。もっとアピールすればよかった。そう感じました」
 だから人を恨むことはなかった。会社に残る選択肢もあったが、まだまだ楕円球を追いたい自分の気持ちに素直になって、その場を求めることにした。
 知人の協力を受けて始めた新天地探し。最初に出会ったのがセコムだった。
 山賀敦之総監督と会い、話す。その人は、自身がラグビー100%、仕事100%で過ごした現役時代の話を織りまぜながら、ラガッツのいまの環境がどれだけラグビーをやるのに苛酷かを話し続けた。夜勤後に走ることの辛さ。なかなか全員が集まれぬ苦労。やめといた方がいいぞ。そんな言葉が何度も出た。
 しかし堀は、そんな話から熱を感じた。その環境の中で楕円球を追っている人たちは、どれだけラグビーを愛しているのだろう。想像が膨らんだ。すぐにお世話になろうと決めた。
 トップリーグのチームなら、シーズンが始まれば半日勤務で練習に取り組めるところも少なくない。自身もそんな日々を送ってきた。
 いまは違う。池袋で警備の仕事に就いている。19時に始まって翌朝に終わる夜勤が2回続き、翌日は休日。そんな生活のサイクルの中でチーム練習に参加できるのは週に1回ということもある。その中で時間をやりくりしてジムに通ったり、走ったり。食事にも気を配り、コンディションを整える。
 夏前にはこんなことがあった。試合で右肩を脱臼したけれど、職場に向かったときのことだ。責任感から、そのまま現場に就こうとしたら止められた。
「警棒を振ることができないからやめておけ、と」
 以前の環境を懐かしむことはない。やるもやらないも自分次第。それこそ、自分が求めた環境だからだ。
「ここにお世話になろうと決めたのは、人間的にも成長できるところで、と思ったこともあります」
 変わりつつある自分を感じている。
 チーム事情により、フロントローだったポジションはいまLOに変わっている。若狭東高校時代から流経大2年まで経験したから戸惑いはない。チームのために力になりたいと思っていたから、コーチ陣からの要請も喜んで受入れた。そして何より、公式戦のピッチに立てている充実が心地よい(NEC時代は2年目に途中出場が1試合あるのみ/3年目のプレシーズンリーグ2試合出場は省く)。
 試合への出場機会が増えれば自身の成長のスピードが高まるかもしれない。ビッグサイズは魅力だ。誘いの手が伸び、ふたたびトップリーグでプレーするチャンスも。
 そんな話に、落ち着いた表情で返した。
「このチームで、チームメートと勝っていきたい。その気持ちしかありません」
 チームには2020年までにトップリーグで戦う集団になるという目標がある。その力になると言った。
「一緒にプレーしていて、伸びしろしかないチームだと感じています。コーチの指示通りに動くだけではなく自分たちでもっと考え、動く集団になり、みんなが同じ絵を共有できるようになれば変わる。もっと強くなりたい」
 元グリーンロケッツなんて看板は、とうの昔に捨てている。
 ラガッツの男の言葉だった。

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