コラム 2016.08.03

目標は「世界一になる」 パナソニックワイルドナイツ・飯島均部長インタビュー

目標は「世界一になる」 パナソニックワイルドナイツ・飯島均部長インタビュー
パナソニックワイルドナイツの飯島均部長(撮影:松本かおり)
 パナソニックワイルドナイツは2015−2016年シーズン、トップリーグ(TL)と日本選手権優勝の2冠を達成した。
 そのチーム所在地は群馬県太田市だが、運営の中心は本社のある大阪府にある。飯島均部長は大阪市内でインタビューに応じ、現場レベルの最高責任者として今シーズンの展望やスーパーラグビー(SR)に初参加した日本チームのサンウルブズついて語った。
――2016年のTLは8月26日に開幕します。本番まで1か月を切りましたが、現在の状態はいかがですか。
 下準備はできていますが、チーム作りはまだこれからでしょうね。全体練習を開始したのが5月の連休明け。そこに、SR(HO堀江翔太、PR稲垣啓太ら)、7人制(WTB山田章仁ら)、外国籍選手が合流したところです。
――今年はTLチームで常態化している夏合宿(北海道)を行いませんでした。
 網走で社会人チームとして最初に合宿をしたのは私たちなのですが、最初はそれなりによかった。地元の人たちもよくしてくれました。しかし、最近はマンネリしてきている。行き帰りで2日いる。費用もかかる。合宿を涼しいところでやってもTLの開幕からは残暑のある中でやらないといけない。それに、私たちは総天然芝のいいグラウンドを持たせてもらっている。昨年、ワールドカップ(W杯)の影響でTL日程が大幅に変更になり、北海道合宿を実施しませんでした。しかし良い結果が出た。主力選手の大半がSR等で不在である、などを考えた時に疑問が浮かび、北海道合宿を行わない決断をしました。
――合宿がないため、7月中のオープン戦は3試合のみ(1勝2敗、Honda=41−7、サントリー=33−52、キヤノン=7−10)です。実戦を前に試合数は問題ないですか。
 私は、日本の場合、ラグビー選手は25歳くらいまでは、世界と戦う体を作ることが大切だと考えています。ストレングスやフィットネスの結果が出るのには8〜12週くらいかかる。ゲームばかりだと体の土台が作られませんから。
――TLが参加16チームによる総当たり戦に戻った感想は。
 2019年の日本開催のW杯で「ベスト8」という目標を立てているなら、以前から私が言っているように、6〜8チームによるホーム&アウェー方式がいいと思います。ミスマッチが少なくなり、競った試合が多くなることで強化が図られる。またSRは日本代表強化に重要です。トップ選手の年間出場試合数抑制も考えなければなりません。以上の理由などからTLを年間15〜17試合するのは難しいと思います。ただ、日本ラグビーを支えているのはTLを中心とした企業であり、各企業がチームを保持する理由もあるので、現時点では総当りは仕方無いかもしれませんね。
――SRに初参戦したサンウルブズは1勝13敗1分の18位、最下位に終わりました。この結果と今後の課題は。
 よくやったと思いますよ。大差で負けるゲームがいっぱいあるだろうな、と思っていました。でも勝ったり、競った試合もあった。
 世界のトップレベルで戦える日本人が出てきたこともよかった。ウチの堀江や山田、それにキャプテンを務めた立川君(理道、クボタ)なんかのイメージが残っています。
 心身ともにフレッシュな状態で試合ができれば、それなりの形にはなります。チームの課題としては連戦や遠隔地の戦いにどれだけ耐えられるか、ということではないでしょうか。
 同時に、現場より運営面の充実が私は必要だと思います。SRはプロラグビーの世界です。コーチングというのはマネジメントに乗っかる形になる。優秀なコーチや選手の招へいにもお金がかかります。マネジメントは端的に言えば資金力。スポンサー獲得や統括するSANZAARからの分配金なども含め運営内部の調整が今以上に必要でしょうね。
――チームに戻った参加選手に疲労感はありましたか。堀江選手は腕を痛めましたが。
 思った以上にありませんでした。最近、堀江がパナソニックアリーナ(大阪府枚方市にあるパナソニック企業スポーツの本部)に奥さんと子どもを連れてきました。普段のどっしりした感じが漂っていました。元気でした。昨年のW杯、TL、SRと連戦で心配をしていただけに、よかったなあ、という感じです。
――筑波大のSO山沢拓也君がこの春から、パナソニックの練習に参加して、オープン戦にも出ました。リーグ戦出場の可能性は。
 それに関しては、今関係する方たちと話し合っています。皆さん、山沢拓也という素晴らしい才能、日本ラグビーの未来のことを考えています。私個人としては、強化という観点から考えれば、18、19歳の若い時からその世代だけでなく、世界のトップレベルの選手たちと練習したり、戦う機会があってもいいと思っています。一方で、日本のラグビーは大学を中心に進歩してきた。文化的な側面もある。教育的なことを考えれば、ただ単に勝てばいい、というだけではダメ。それらをどう調和させるか、難しい問題です。
 ただ、大学は勝敗によって早くシーズンが終わるところもある。その中で優秀な選手は空いた日をTL参加できないか、と考えています。才能を引き出すにはとてもいい機会ではないでしょうか。
――今年度はWTB福岡堅樹(筑波大)、WTB藤田慶和君(早稲田大)ら大学で日本代表入りしたスターを獲得しました。すでに好選手がいるにもかかわらず大量補強する理由は。
 簡単に言えば、よいチームを作りたいんです。よい選手は「獲り過ぎる」ということはない。毎年いい選手が入ってくれば、チーム内に競争が生まれ、活性化につながります。
 以前、私たちのリクルート時における弱点は、「地方にある」ということでした。都会で育った大学生は敬遠傾向にありました。そのため、プロ化を研究しました。それが生き残る道だと考えたからです。もちろん、メンバー全員がプロではありませんが、プロ化することによって、個人のニーズに応えやすくなる。そして、ラグビーに集中して、世界と戦える選手になる。そのあたりも優秀な大学生が来てくれる要因だと思います。
――その先に見据えるものはなんですか。
 大風呂敷ですが、目標は「世界一になる」ということです。オールブラックス(ニュージーランド代表)に勝てるチームを作りたい。ロビーさん(=ディーンズ、監督)とは「ゴールは2031年のW杯だよ」と話しています。笑われるかもしれないけれど、それを心に秘めながらチーム運営に携わっています。ここで話したら秘めたことにはなりませんが(笑)。
◆飯島 均(いいじま・ひとし) 1964年(昭和39)9月1日生まれ。51歳。現役時代はFL。東京都立府中西高から大東文化大を経て1987年に三洋電機に入社。現役時代は日本選抜(代表の下のカテゴリー)。1996年に現役引退。2003年W杯では日本代表FWコーチ。2期7年の三洋電機監督後、部長に就任。2011年、会社はパナソニック傘下に入るが、その間も含め部長として7年目を迎える。
(取材・構成=村上晃一、鎮勝也)

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