海外
2016.07.20
サンウルブズ茂野、シャークス戦後に語った「途切れると意味がない」の意味。
シャークス戦ではラインアウトからの鮮やかなサインプレーで自らもトライを挙げた茂野海人
(Photo: Getty Images)
下がり切っていない。それが基準だった。
現地時間7月15日夜、南アフリカはダーバンのキングスパーク。
国際リーグのスーパーラグビーに日本から初参戦したサンウルブズが、上位8強によるプレーオフ進出を目指すシャークスと打ち合いを演じる。過去2試合で計107失点と苦しんでいた新興クラブだったが、この日は前半を19−21と競り合う。29−40と惜敗したが、ボール保持率を「61パーセント」と保った連続攻撃で成果を示した。
下がり切っていない。それを基準としていたのは、茂野海人だった。この日は接点から球をさばくSHの位置で先発し、攻めのテンポを上げる。敵が反則するや、速攻を仕掛ける。
タッチラインの外へ蹴り出してプレーを再開してもいいグラウンド中盤あたりでも、相手が10メートル後方まで「下がり切っていない」と見たら、単騎で駆け上がるのだ。
ルール上、反則した側がその地点より10メートル以上後退せずにプレーに参加した場合、二重でペナルティが科される。反則された側としては、反則した側が停滞した瞬間は攻めたもの勝ちと捉えられなくもない。茂野は自らの速攻を、大柄な選手の多い相手に勝つためのツールと捉えていた。
「あの時も、相手が下がり切っていなかった。また、こっちが勢いに乗っている時だった」
当の本人がそう振り返るのは、7−21とリードされていた前半35分の局面である。サンウルブズは敵陣22メートル線付近左中間のスクラムから展開し、CTBのパエア ミフィポセチが守備網を破る。文字通り「勢いに乗って」いるなか、接点の周りでシャークスが反則を犯す。
茂野は、そのまま攻め上がった。
「相手の反応もそれほどよくなかったので、勢いで仕掛けて、トライにもつながったかなと」
結局、敵陣ゴール前右中間で再びパエアがパスを受ける。インゴールへ躍った。14−21。差を詰めていた。
身長170センチ、体重75キロの25歳。サンウルブズへは開幕直前に追加招集され、11試合で出番を得た。1勝13敗1分とやや不本意な成績に終わったなか、地に足を付けた実感を語る。
「いい経験をさせてもらって本当にありがたいという気持ちと、状況判断の課題が出た(と反省)。きょうも、キックを蹴るべきじゃないところで蹴ったりもしていた。ああいうのを減らさないと、このレベルでプレーするにはまだまだダメ。そう感じました」
茂野の語る「いい経験」とは、速攻を仕掛ける基準に代表される、強豪を倒す手段構築のプロセスを指していよう。
6月に初参加した日本代表の一員としても、速攻からスコアを演出。欧州6強の一角であるスコットランド代表を翻弄した。巨躯の足元を痛快に駆け上がり、手応えをつかんだという。
平時の攻撃についても、こんなことを語っていた。
「あれだけのプレッシャーのなかでボールをさばく、と。今回の試合(シャークス戦)はわかりやすかったですけど、キャリアー(ボール保持者)へサポートが2枚入っているのに、キャリーした時にはその2枚が(相手の守備に)はがされたりしていた。コンタクトでアグレッシブに来ているな、と。全体として、そう思いました」
接点で走者を羽交い絞めにする南アフリカ勢を相手とするなら、仲間のランナーへは常に低い姿勢のコンタクトと素早いサポートを要求しなくてはならない。気を抜かず、要求しなくてはならない。そう再認識したか。
「ボディーファイト。(ランナーは)姿勢が高くなると持ち上げられるので、低く。サポートはアーリー(素早い)サポート…。どこのチームもコンタクトが強い。その意味では、今回サンウルブズでプレーした日本人はいい経験を得たかなと思います」
昨季は国内所属先のNECからニュージーランドへ留学し、オークランド代表としてITMカップ(同国の地域代表選手権)に出場している。海外でのプレーに抵抗はなく、来季については「何とも言えない」と言葉を濁す茂野だが、「外に出るのもありかな」とも吐露。もしサンウルブズが契約延長を目指すなら、放置はできまい。
むろん茂野は、移籍ありきで物事を考えてはいまい。未来の日本ラグビー界を支える1人として、サンウルブズの展望も語る。シャークス戦後の質疑に応じる形で、未来予想図を描くのだった。
「結果がついてこなかったですけど、1年目のチームを作り上げられた。これを2年目以降、継続して今後につなげないといけない。途切れると、意味がないので。悪い部分は課題として成長させて、いい部分はそのまま成長させる…」
列強国と伍すフィジカルを継続的に鍛えながら、連続攻撃継続のための運動量を高める。茂野の思うこの国の必勝法を貫くには、継続的な強化プランも必要か。会話の流れのなか、殊勲のSHはこうも言っていた。
「2年目はどんなチームになるかはわからないですけど、今年度よりいい成績を残さないといけない」
(文:向 風見也)