セブンズ 2016.07.12

若きチーム、「志」つなぐ全国1勝。改革進むJR九州サンダース。

若きチーム、「志」つなぐ全国1勝。改革進むJR九州サンダース。
ジャパンセブンズのパレードで。仕事のスタイルで秩父宮を歩いた。
(撮影/松本かおり)

 今は各駅停車かもしれない。だが、レールは必ず、目的地へとつながっている。
 トップリーグ(TL)下部のトップキュウシュウ所属、JR九州サンダース。昨季は同リーグ8チーム中5位だった。「一気の強化は無理でも、一つずつ結果を出していきたい」。そう話す表建二(おもて・けんじ)監督のもと、チームの改革が、少しずつ進んでいる。
 今季は例年より3か月以上も早い昨年末に新チーム結成。4月の7人制九州大会を経て、全国大会を最初の目標にした。狙い通り、九州を勝ち抜いてジャパンセブンズ初出場を決めたが、その準備を進める中で、熊本・大分の震災が起こった。
 クラブの活動自体に制限はなかったが、会社の性質上、災害が起これば職場が忙しくなるのは当然。部員の中には、実家が倒壊した熊本県出身者もいた。

 ラグビー部として熊本県益城町へ。瓦礫の撤去などボランティア活動を展開した。被災者の前向きで明るい振る舞いが、同じ九州人として誇らしく、逆に励まされた気がした。「元気に!九州」。大会に向けて新調したジャージーの袖には、会社が掲げる合言葉を刻んだ。
 そして7月10日、ジャパンセブンズ本大会。15人制でも主軸になるメンバーで臨み、予選から3連敗で迎えたボウルトーナメント最終戦、釜石シーウェイブスに36−14で快勝した。初めてともいえる全国の舞台での1勝だ。「まず素直に喜んで、またすぐに次の目標設定を」と監督は言った。そんな「一つずつ」の達成を重ねた先には、トップチャレンジ進出と初勝利、まだ遠いTL参戦への「志」がある。
 
 日本人ばかり36選手の勤務地は、福岡県内の各駅などに散らばる。駅員さん、車掌さんとして、宿直勤務に組み込まれることも。週2回の夜間練習に、半数以下しか集まれないことも多い。創部は1931年と古いが、2011年のトップチャレンジ進出(0勝2敗)が最高成績。経験豊富な九州電力、マツダなどを軸に、リーグ内での争いは激しい。情熱が結果に直結しないもどかしさは、サンダースの伝統にも思えた。

 そんな歴史を、変えようとする動きが起こっている。昨年就任した同志社大出身の表監督は35歳。選手時代、縁の下の力持ちを地で行くFW第一列の要だった。今度は俺たちが支えたいとばかりに、同世代の選手が次々にコーチなどに転身。帝京大をはじめ、強豪の有望選手獲得が続いたこともあり、現役選手の平均年齢は26歳に満たなくなった。チームの世代交代が進んだのだ。
 この2年足らずで社内スタッフは12人にまで増えた。こちらは働き盛りの30代ばかり。裏方として、職場での姿そのままに行動力を発揮、次々と追い風を吹き込んでいく。グローバルアリーナ(宗像市)と契約を結び、芝生のグラウンドを毎回の練習で使えるようになった。リクルーターからの情報の共有意識も高まった。すでに100人近くの各大学新3年生、九州出身者をリストアップ。選手獲得のためのスタッフの意見交換会は、深夜に及ぶ。
 
 全選手の集合はまだ難しいが、若いチームならではの工夫もできあがった。仕事を終えると、部員は携帯アプリ「ライン」のグループトークに目をうつす。「勝つための練習を」「『志』はトップチャレンジでの勝利」「強気で自ら突破口を」。練習前に必ず入っている表監督からのメッセージが、結束を強める。
 選手は画像も添え「就業後にトレーニングしました」「上司から、器具設置の許可が出ました」。報告を競うように投稿する。あいつがやるなら俺も、と自然発生的に起こった取り組みだ。柴田一昂(しばた・かずたか)主将は「限られた環境でも、個人が勝つための努力をして、相乗効果をつくっていきたい。まだまだこのレベルで満足はできない」と話す。

 会社側の後押しも、さらに強くなりそうな気配を感じている。来年度から新入社選手の増員が決まった。今回のジャパンセブンズの東京遠征にあたっては、試合に出ない部員を含めて全員が同行を認められた。
 地域の清掃活動や、子ども達へのクリニックなども、会社の理解を受けつつ続けている。「職場からの応援も本当に多くなった。結果で恩返ししたい」と主将。あとは一つずつ結果を残すことで、クラブと会社側の本気度が重なり、強化が加速する日も来るのではないか。始まったばかりの改革のさなか、若いチームはそう信じる。
 早くも2か月後、リーグ戦が開幕する。「選手たちが今、本当に頑張って、自ら意識を変えてやってきている。だからこそ勝ちたいし、勝たせてやりたい」。いつも穏やかな表監督の口調に、熱がこもった。

7jr

ジャパンセブンズでは試合ごとに調子を上げ、ボウル優勝を手にした。

(撮影/松本かおり)

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