海外
2016.03.29
「同じ画を見せる」。田村優が語る「ストラテジーリーダー」の仕事内容とは。
チーターズ戦でプレーするサンウルブズの田村優(C)JSRA photo by H.Nagaoka
国際リーグのスーパーラグビーに日本から初参戦中のサンウルブズは、選手の自主性に支えられている。特に、チームの戦術略をメンバーに落とし込むストラテジーリーダーの役割は大きい。マーク・ハメット ヘッドコーチ(HC)も田邉淳アシスタントコーチも、そう認めている。
堀江翔太主将、日和佐篤、トゥシ・ピシ、立川理道とともにその役割を担うのが田村優だ。ここまで開幕から4戦連続でインサイドCTBとして先発中である。「アタックは、よくなっている」と、2月初旬に顔合わせをしたばかりのチームの成長を語る。
昨秋、ワールドカップイングランド大会で歴史的な3勝を挙げた日本代表の27歳だ。新生クラブではキャリア組と目されている。過去にプレーした明大や現国内所属先のNECで、ずっと攻撃の軸を務めてきた。もっとも、チームの戦い方を無から作り上げた経験はなかったという。2月中旬にあった沖縄合宿中、こんな言葉を残していた。
「今回は本当に大事なベースの部分について話し合っている。単純にミーティングの量も増えるので、確かにストレスはかかります。ただ、いい経験かな、と思います」
リーダーの自覚が芽生えたか。そう言われれば、自由を愛する当の本人は首を傾げるだろうか。もっとも周りを先導する姿勢は、1か月以上経ったいまも変わらない。
3月23日に都内でおこなわれていた練習中。実戦形式のセッションを終えるや、途中出場の予想される選手に田村が声をかけていた。「後半から入ったらさ…」。ピッチに登場した後の位置取りなどについて確認していたようだ。3連敗中だった当時、「試合でリザーブの選手が出てきた時、テンポが落ちるところがある」と感じていた。
「スターティングメンバーとリザーブで(戦術略の)理解度が違っていたんです。だからいまは、しつこくと言ったらおかしいですけど、その都度、その都度…(理解度の確認作業をしている)。僕らがわかっているから、皆もわかっているだろう…ではなく、ちゃんと伝えた方がいいかと思いました」
ミーティングではハメットHCが「どんな発言も間違いにはならない」と、選手の意見交換を促している。かねて「皆が戦術略を理解しているところが強み」と話す堀江主将も、「大枠は皆が理解しているから、ちょっとしたズレがあってもすぐに修正できる」。ストラテジーリーダーが中心となり、試合を終えるごとに次への課題を共有する。
最近のラグビー界での流行語に、「セイムピクチャー」「同じ画を見る」がある。場面ごとのプレー選択や判断を、グラウンドに立つ全員が共有している状態を指すのだ。
「チームが同じ画を見る。そのために、同じ画を皆に見せること」
田村は自分たちの仕事を、こう説明した。23日のワンシーンの裏にも、「同じ画を見せる」の思いがあるという。
「大きな幹をコーチ陣が出すなか、僕らが『こんな方法もあるよね』と付け足す。あとは、やろうとしていることを繰り返しチームに言って、理解してもらう。僕らは(ストラテジーリーダーという立場上)コーチと密に連携を取っている。ただ、僕らだけ知っていることがあるとしたら、周りは気分もよくないと思うので」
24日に離日したチームは、26日、シンガポールで第5節に挑む。修正を施した組織守備で、優勝経験もあるブルズのミスを誘った。しかし、結果は27-30で惜敗した。28日にはポートエリザベス(南アフリカ)へ移動。キングズとの第6節で、今度こそ初勝利をつかみたい。アウェーの環境で、田村らはどんな「画」を共有するのだろうか。
(文:向 風見也)