海外 2016.03.25

「会議」も発足。サンウルブズの3番争いのいま。

「会議」も発足。サンウルブズの3番争いのいま。
サンウルブズでポジション獲得を目指すPR具智元(撮影:松本かおり)
 いわば「3番会議」か。国際リーグのスーパーラグビーへ日本から初参戦しているサンウルブズにあって、背番号3を争う右PR陣が新たな試みを始めている。
 3月21日、全体練習後のグラウンド脇のベンチ。浅原拓真、垣永真之介、具智元の3人が並んで座る。1台のノートパソコンを通し、次戦でぶつかるチームの背番号1候補を見つめる。右PRにとって対面にあたる左PRのスクラムの組み方を分析し、対策を話し合うためだ。
 両軍合わせて16人のFWが組み合うスクラムは、プレーの起点としてその後の攻防に影響を及ぼす。そんな競技の肝とされるシーンにあって、相手の左PRとHOの間に頭を挟まれる右PRは、しばしラグビーの「心臓」と称されるポジションだ。「会議」を始めたサンウルブズの「心臓」たちは、その重責を担う同志であり、キーポジションを争うライバルでもある。
「ワークレート(仕事量)とプレーの精度が足りていなかった…ということなので。ここにはレベルの高い選手が集まっている。いろんな選手のいろんないいところを吸収していきたい」
 こう自己分析するのは、東海大を卒業した平野翔平だ。今季の大学ラグビー界で随一のスクラメイジャーとして注目を集めていたが、サンウルブズの実戦練習では常に控え組にしか入れずにいた。「スクラムはチームのキーになっている。ここで自分が使ってもらえるように…」。現在は進路先であるパナソニックの職務の関係で、チームを一時離脱中。左PRもこなせる身長178センチ、体重125キロの22歳は、復帰後に再びのチャレンジを期す。
 同じく控え組に甘んじているのが、身長184センチ、体重122キロの具。この春から唯一の学生選手となる拓大の新4年生は、24日から約3週間をかけてシンガポール、南アフリカを回る長期遠征に参加する。マーク・ハメット ヘッドコーチ(HC)からの「全員に1度はチャンスが回ってくる」との言葉を胸に、黙々とスーパーラグビーデビューを目指す。
 スクラム練習では、揺さぶられても動かぬ上体の強さを示す。慣れない左PRを組んだ時、手練れの浅原にフォームを崩されたくらいである。だから、仲間からの評価は低くない。昨秋のワールドカップイングランド大会で日本代表だったHO木津武士は、こう証言していた。
「具、めちゃ強いです。稲垣(啓太、同じくワールドカップに出場した左PR)ともそう話しています。あとは練習でもっと(首脳陣に)アピールをすれば…」
 ゲームに出続けているのは、垣永と浅原だ。試合がおこなわれなかった第2節を挟んで開幕3連敗中も、チーム内でのスクラムのまとまりに手応えを感じ始めている。第3節(対チーターズ/3月12日/シンガポール・ナショナルスタジアム/●31-32)でデビューを果たして第4節(対レベルズ/19日/東京・秩父宮ラグビー場/●9-35)で初先発した浅原いわく、「チーム全体がスクラムにフォーカスし始めてくれている」との雰囲気も生まれている。後方から支えるLOやFL陣の押し込みは、より強くなっているらしい。
 その成長ぶりを、より促進させたい。そう思って「会議」の発足を呼び掛けたのが、垣永だった。ワールドカップイングランド大会日本代表のバックアップメンバーで、国内ではサントリーに所属する身長180センチ、体重115キロの24歳。今回のスーパーラグビーでは、開幕節から2戦連続で先発中だ。チーム方針の策定に多くの選手の意見を吸い上げるサンウルブズにあって、自主性をにじませていた。
「みんなが言いたいことを言えるというより、みんなが考えなきゃいけないチームだと思います。ここは。若手でもしっかり発言できる環境が整っている」
 垣永が話すには、この「会議」で主役となるのは浅原のようだ。身長179センチ、体重113キロと国際舞台にあっては小柄な28歳で、2012年に初選出された日本代表からは2014年春を最後に離れていた。しかし、スクラムの強さは国内随一とされてきた。前年度の日本最高峰トップリーグでは、準優勝した東芝のレギュラーとして初のベストフィフティーンに輝いた。
 冨岡鉄平監督が「どんなラグビーをするのであれセットプレーにはこだわる」と話すように、東芝は強力スクラムを伝統とする。浅原は、そんな道場で鍛錬を重ね、多種多様な相手と組み合ってきた蓄積で、「会議」の内容に深みをもたらしている。
 サンウルブズは26日、シンガポールで第5節に挑む。相手は南アフリカの巨躯揃いブルズだ。浅原は言う。
「ブルズの1番は、力で強烈に内(自軍のHO側)に入ってくる。しっかり僕が外(左)に張って、(「内」に入る左PRを)肩で止める感じで行きます」
 開幕1か月前からの準備で急成長を遂げるチームは、選手主導でスクラムの質を高めんとする右PR勢は、ファン待望の歴史的初勝利をつかめるだろうか。
(文:向 風見也)

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