国内 2016.01.31

パナソニックが日本選手権優勝、2冠! ひたむきな挑戦者、帝京大を下す

パナソニックが日本選手権優勝、2冠! ひたむきな挑戦者、帝京大を下す
王者同士の激突。大差はついたがパナソニック、帝京大ともに最後まで熱闘を繰り広げた
(撮影:松本かおり)
 19年ぶりに社会人王者×大学王者の一騎打ちとなった日本ラグビー選手権大会(第53回)は、1月31日に東京・秩父宮ラグビー場でおこなわれ、トップリーグとの2冠を狙ったパナソニック ワイルドナイツが全国大学選手権7連覇の帝京大学を49-15で下し、2年ぶり5回目の日本選手権優勝を遂げた(三洋電機時代を含む)。
「気持ちをいつもより上げて臨まないと、と思っていた。チャレンジしてくる相手の方がメンタルは高いと思っていたので」
 そう語ったのはパナソニックの堀江翔太キャプテンだ。
「出だしが悪いので、ロケットスタートを意識して2つとれた。後半は個々の強さもあって前に出られた。(帝京大は)学生だけど、学生ではなかった。試合1週間前から、『学生と思うな』ということを言ってきてよかった」
 パナソニックは序盤から主導権を握った。マイボールキックオフをLOヒーナン ダニエルが確保し、ノーホイッスルのままフェイズを重ねてFB北川智規が先制。リスタート後もボールをキープし続け、5分にはWTB児玉健太郎がゴールラインを割った。
 攻撃機会が少なかった帝京大は、10分、SO松田力也とWTB尾崎晟也が右サイドを駆け上がり、FB矢富洋則につないでトライチャンスとなったが、猛追したパナソニックのWTB児玉がタックルで落球させ、帝京大に得点を許さなかった。
「立ち上がりが難しい。あまり気持ちを高めすぎても、コミュニケーションがとれるものではない。前週まで高め続けたチームと、ぽかんと間があいた違いがあったかも」(帝京大・岩出雅之)
 パナソニックがトップリーグファイナルから一週間後に日本選手権を迎えたのに対し、帝京大は大学選手権決勝から3週間が経っていた。この試合で好スタートを切ったのは、経験豊富な社会人チームの方だった。
 真剣勝負の大舞台で激しい戦いのなか、帝京大は飯野晃司、金嶺志の先発両LOが最初の約20分間で負傷交代する苦しい展開となる。が、「うまく行かなくても立ち続けよう」と送り出された若人たちは、勇敢なチャレンジャーであり続けた。
 26分に自陣深くからのカウンターでWTB尾崎が大きくゲイン、サポートしたWTB竹山晃暉がキック&チェイスで場内を沸かせた。パナソニックのLOヒーナンが先にボールに追いつき、またもトライを奪えなかった帝京大だが、守りの方では、数分前のCTB石垣航平に続いて途中出場LO姫野和樹もビッグタックルを放ち、仲間を奮い立たせた。
 33分にパナソニックのWTB山田章仁がトライを挙げ、前半は21-3で終了。
 学生王者に対して手を緩めないパナソニックは、後半早々にSH内田啓介が軽快なステップで防御網を切り裂き、47分(後半7分)にはラインアウトスチールからたたみかけてゴールに迫り、CTB林泰基がフィニッシュ。SOベリック・バーンズのゴールキックも好調で、35-3となり、この時点で勝負はついていた。
 しかし、ひたむきにゴールをめざし続けた帝京大。そして58分、ついにトライを挙げる。自陣から辛抱強くつないでゲインし、LO姫野の突進で敵陣22メートルライン内に入ったあと、作ったスペースにHO堀越康介が走り込み、インゴールにねじ込んだ。
 その後、パナソニックに2トライを追加されたが、帝京大は最後まで懸命にプレー。77分にゴールラインを越えたFWはグラウンディングできなかったが、直後のゴール前スクラムで劣勢になりながらもボールをキープしてショートサイドを攻め、1年生のWTB竹山がインゴール左隅に飛び込み、チーム2トライ目を挙げてチャレンジを終えた。
「今年1年間、前を向いてプレーしようと言ってきた」と帝京大の坂手淳史キャプテン。「このゲームを楽しもう。そのためにはタックルからいこうと話し、危機感を持ってやってくれた。体を当てた感触では、通じた部分と、(パナソニックは)うまいな、と思う部分の両方があった。体の使い方がやはりうまい。最後のトライはみんなで取ってやろう、取ってやる、という気持ちでした」
 試合後、帝京大にもスタンドから大きな拍手が送られた。でも坂手主将は満足していない。
「まだまだできることがあると反省している。正直言って悔しいです。その悔しさから何かが生まれ、克服していく。それが帝京大学の強さ。もう一度練習して、人間性も高め、また挑戦したい」
 岩出監督はこう言った。
「学生はよく頑張った。でも、まだまだ力が足りなかった。もう少し、こういうことができたらな、というシーンもたくさんあった。試合後の表情、納得できていたら、もう少し違ったもののように見えた。次の世代がやってくれるでしょう」
 そして全力でぶつかってきてくれたパナソニックに感謝の気持ちも込め、「堀江とバーンズが頑張りすぎ」と笑った。
 帝京大の来季のキャプテンはFL亀井亮依が務める。バイスキャプテンはLO飯野晃司とSO松田力也だ。
 パナソニックのロビー・ディーンズ監督のコメントには、帝京大に対する敬意が感じられた。
「今季を締め括る試合としては、いいゲームができた。非常に速い展開で、タフなゲームだった。そして、両チームから素晴らしいプレーが出た。帝京大学は素晴らしい気迫があり、仕掛け続けてきた。ハーフタイムのパナソニックの選手たちはハー、ハー言っていた。さらに試合が決まってからも、帝京大は仕掛け続けた。彼らは十分にトップリーグで戦える水準にある。ただ1試合と、何試合も、では違う。セットプレーについても、突け入られるスキがあった。しかし競争力を持っているのは確か」
 来季もトップリーグ王者×学生王者の一発勝負の日本選手権になるかどうかはわからない。今季はワールドカップやスーパーラグビーの関係もあり、例年とは違う日程・形式で日本選手権がおこなわれたが、パナソニックのディーンズ監督は「選手の観点からいくと、今年のフォーマットが一番嬉しいだろう」と語り、堀江主将も「トップリーグで上げて、また日本選手権で上げるのはきつい。心と体はつながっていると思うので」と、短期スケジュールを歓迎していた。
 今季2冠を達成したパナソニックからはこのあと、多くがスーパーラグビーに参戦する。夏のオリンピックも視野に入れている山田章仁は休む間もなくオーストラリアに向かい、あさって火曜日には7人制日本代表に合流して6日からのワールドセブンズシリーズ(シドニー大会)に臨む予定だ。

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2シーズンぶりにトップリーグと日本選手権の2冠を達成したパナソニック ワイルドナイツ
(撮影:松本かおり)

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