国内 2015.12.01

自分たちに克ったキヤノン 大分で苦労してつかんだ大きな勝点5

自分たちに克ったキヤノン 大分で苦労してつかんだ大きな勝点5
キヤノン、勝利後の会見。永友監督と橋野主将の表情が苦しかった試合を物語る
(撮影:RUGBY REPUBLIC)
 ウィリー・ルルーも、ほかの数人もいらだっているように見えた。ハーフタイム前、PKからすぐにアタックに入ろうとしてボールリリースを急かした相手選手に対し、キレたティム・ベネットがボールを顔面にぶつけてしばらくにらみつけていたのは、もしかしたら自分自身やチームメイトに対する怒りもまじっていたのかもしれない。キヤノンイーグルスにはフラストレーションがたまっていた。後半17分頃まで、サポーターは何度ため息をついただろうか。「何やってんだよ…」。敗色濃厚。彼らにとっては、陰うつな日曜の午後になりそうだった。
 だが、キヤノンイーグルスは勝った。
 ラスト20数分間で15点差をひっくり返し、コカ・コーラレッドスパークスを31-25で下した。11月29日、大分市営陸上競技場でおこなわれたトップリーグ(グループB)の第3節。
 先制したのはコカ・コーラだった。開幕2連敗だったこの九州チームは序盤から激しく攻め、スピーディーにワイドにボールを動かすだけでなく、有効的に前へ運んで主導権を握る。前半5分、LOサム・ワイクスが5点を入れた。
 一方のキヤノンはラインアウトが安定せず、エラーと反則を重ね、自ら流れをぶつ切りにした。キャプテンのSO橋野皓介が「最初の20分にフォーカスして、そこを全力で戦おう」と言って試合に臨んだが、初勝利をめざし必死だったコカ・コーラのプレッシャーを受け、劣勢となる。18分にLO菊谷崇の突進からビッグチャンスとなり、相手の反則でペナルティトライを得るも、集中力高くボールをコントロールしたのはコカ・コーラで、10-14で前半を終えた。
「何かを変えたい」と思っていたキヤノンは、ラインアウトを含めて機能していない部分を修正するため、後半にメンバーを入れ替えていった。少しずつ効果は出たが、しばらく、コーラペースの展開は変わらなかった。
 PGで先に加点したコカ・コーラもフレッシュレッグの投入でテンポがよくなり、51分(後半11分)、WTB築城昌拓がゴール右隅に飛び込んだ。さらにSO福田哲也のショットでリードを広げ、10-25となる。
 苦しくなったキヤノン。このまま自滅しそうな雰囲気は確かにあった。しかし、ここで円陣を組み、男たちは再び闘志を奮い起こす。「俺たちは試されているんだ」。橋野キャプテンが言った。「苦しい展開だけど、こういう厳しい試合をしっかり勝ち切ろう。1トライずつ取り返していって、最後は絶対勝とう!」。これを機に、フィールドにいるイーグルスの15人は誰も軽いプレーをしなくなったと、のちに主将は振り返る。
 58分、キックレシーブのカウンターから右を攻め、FBルルーがトライ。キック成功で8点差。キヤノンが活気づく。その3分後、コカ・コーラの選手がハイタックルでシンビンとなり、流れは変わった。
 逃げ切りたいコカ・コーラは14人が辛抱して守っていたが、67分にオフサイドの反則を犯し、タッチキックを選択したキヤノンがラインアウトからモールで押し込み点差を詰めた。
 そして、71分に逆転する。キヤノン主将のSO橋野が自陣深くでハイボールをキャッチしたあと、相手防御のスキを突いて中央をブレイクスルー、サポートもしっかりつき、敵陣深くに入ったあとテンポよく右へ回し、最後はルーキーのFL杉永亮太が逆転トライを決めた。終盤の3連続トライのあと、CTB三友良平が難しいコンバージョンキックを含めすべて成功させたのも効いて、キヤノンがボーナスポイント付きの勝点5を手にしたのだった。
 試合後の会見で、キヤノンの永友洋司監督は疲れた表情のなかに安堵の色をにじませた。「勝ちをいただいたという感じ。あきらめずに追いつき、追い越した選手たちの頑張りに尽きる。ただ、自分たちのミスも非常に多かった。ゲームの入り、準備の段階で足りないものがあったのではないかと私自身も反省する。これをいい教訓としたい」。
 ハードな80分間を終えたばかりの橋野キャプテンにも笑顔はほとんどなかったが、盛り返してつかんだ勝利の重みをかみしめているようだった。「こういう苦しいゲームをしっかり勝ち切れたというのは、次節に向けてすごい自信になった」。
 一方、臼井章広監督いわく「7割、8割は試合運びとしてうまくいった」コカ・コーラだが、今季初勝利を手にすることはできなかった。キャプテンのFL山下昂大は、「後半残り20分で勝ちが見えてきたときに、ペナルティが重なってしまったのが敗因だと思う。それに、チームとしてアタックするのか、キックでエリアを取っていくのか、曖昧になってしまった。チームの方向性を僕がしっかり定めないといけなかった」と悔やんだ。
 それでも、コカ・コーラは今季これまでのベストパフォーマンスを見せた。指揮官は手応えを感じている。「いいところはたくさん出ていたので、残り試合、しっかり戦っていけると感じた。これからも自分たちのスタイルを貫いて攻めていく。早くレッドスパークスのファンと一緒に勝利を喜びたい」。

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