コラム 2015.11.24

トンプソンが愛される理由。 トークライブで拍手喝采

トンプソンが愛される理由。 トークライブで拍手喝采

 日本代表の南アフリカ代表戦以降、連日のようにメディアにラグビーが取り上げられる。長年のファンの皆さんには信じられないようなことが起きているのだが、全国ネットのテレビだけでなく、関西ローカルのテレビや活字メディアでも日本代表選手が登場している。なかでも、さまざまな取材を受けているのが近鉄ライナーズのトンプソン ルークだ。日本代表の快進撃のなかにあって、ボールを持ってのあくなき突進、タックルと体を張り続けたトンプソンの姿は多くのラグビーファンに感動を与えた。

 そのトンプソンが、11月23日の夜、大阪・北浜のラグビー普及促進居酒屋「ラグビー部マーラー」にてトークライブを行った。筆者が司会を務め、原則日本語で行ったが、日本語で細かなニュアンスを伝えられない場合のサポートで、近鉄ライナーズ通訳の坂口宗実さんにも同席いただいた。店内は、トンプソンの生声を聞きたいというラグビーファンの皆さんで満席。キャンセル待ちが多数出る人気だった。

 店内のスクリーンに南アフリカ戦の映像が映し出されると、トンプソンは腕をさすった。鳥肌が立ったからである。勝った瞬間のこと、「信じられなかった。めちゃめちゃ、嬉しかった」と力強く、シンプルに表現した。トンプソンは2007年、2011年のラグビーワールドカップ(RWC)に出場したが、2度の引き分けがあっただけで、勝つことができなかった。「その経験は重要。勝ちたい気持ちがめちゃめちゃ大事。僕は2011年大会で日本代表は引退しようと思っていました。でも、エディーさん(ジョーンズ ヘッドコーチ)から連絡があって、僕の力を必要としてくれた。あと4年やるのは家族の理解も必要だし、話し合って決めた。エディーさんは、ずっと過去の日本代表の歴史を変えようと言っていた。世界一フィットネスの高いチーム、一番ハードワークするチーム、一番賢くプレーするチームになろうとした。勝つカルチャーを作ろうと言っていた」。それはトンプソンも同じ思いだった。

 南アフリカ戦のことを振り返ってもらうと、「勝つ準備をしてきたから、日本がいいパフォーマンスをすれば勝てると思っていました」と話したが、そのための練習は「嫌いだった」と苦笑い。「南アフリカは、スクラム、ラインアウトが強いから、それを少なくするために、コウセイさん(小野晃征)、ゴロウさん(五郎丸歩)のキックはグラウンドの真ん中の奥に蹴る。すると相手が蹴り返すか、カウンターアタックをしてくる」。それを想定した練習は休まず動き続けるものだった。「練習セッションの一つひとつは短い時間だけど、強度が高い」。それは、これまで経験した練習で一番しんどいものですか?と質問してみると、「はい」。絶妙のタイミングの返答にお客さんも大笑い。笑いのツボも心得ている。

 RWCの日本代表戦をすべて見た人であれば、サモア戦の最後、起きあがれなかったトンプソンの姿を覚えているだろう。あのシーンについて聞いてみると。「ぜんぜん大丈夫。僕はボールにセービングしようと思って、相手にコンタクトされた。そしたら、笛が鳴って試合が終わった。すごく疲れていたから、ちょっと休みたかっただけ」。泣けてくるコメントである。

 どうして、そんなに力を出し切れるのか聞いてみる。「チームが勝つための力になりたいから」。トンプソンは日本を愛している。「22歳で日本に来たとき、最初は三洋電機に入った。本当は2年したらニュージーランドに帰ってオールブラックスを目指そうと思っていました。でも、日本の人はみんな優しかった。僕の家族にも優しくしてくれた。近鉄に移っても、みんな優しかった。日本代表にも入り、2011年RWCの前、日本国籍を取得しようと思った。いろんな理由があるけど、日本代表でプレーすることは特別だし、責任も重大です。日本人のため、友だちのため、家族のため、会社のためプレーしたい。日本人として日本代表でプレーしたかった。それと、日本で産まれる子どもに日本の名前をつけ、日本の歴史、文化を理解し、ルーツを忘れないようにしたかった」。

 2015年RWCで代表を引退することは大会前から決めていた。今年の5月、夫人が第二子を出産した。トンプソンは3週間だけ夫人のそばにいるために日本代表合宿から離脱した。「僕のお父さん、お母さんはニュージーランドだし、他に家族もいない。一人だったからね」。トンプソンに限った話ではないが、代表で戦い続けることは家族に負担をかけることでもある。今年のRWCは両親、妻、2人の子ども全員でイングランドに来て日本代表での最後の雄姿を見届けてくれたという。「それが一番良かった」。

 トークライブの後半はお客さんからさまざまな質問を受けた。南アフリカ戦とスコットランド戦が中3日は難しかったのでは?間隔は最低何日必要か?という質問には、「一年前から分かっていたことだから言い訳はしない。エディーさんもその準備をした。でも、正直言えば、3日でリカバリーは難しい。せめて5日はほしい。スコットランド戦まで7日あれば、勝敗は分からないけれど、もっといい試合ができたと思う。トップリーグでも試合の次の日は体が痛い。テストマッチはもっとダメージがある。RWCはもっと上です」。

 引退後はコーチになって日本代表選手を育てる気持ちはないか?という質問には、「引退後のことはまだ考えていません。今は近鉄ライナーズでプレーする。チームが契約してくれるならできるだけ長くプレーしたい。でも、チームが他にいい選手を獲りたいなら、契約してもらえない。それがプロです」と自らの置かれた立場を淡々と話した。そして最後にこう言った。「いま、僕が集中しているのは、次のサントリーサンゴリアス戦です」。拍手喝采。毎試合ベストを尽くすトンプソンらしい答えだ。今後のトップリーグでも、これまで通り献身的に走り続けるプレーを見せてくれるのは間違いない。

 ちなみに、10年前に近鉄入りし、最初に覚えた関西弁は何かと聞いた。「なんでやねん」。それはどういう時に使うのですか? 「若い選手の集中力が欠けているとき」。なんとも正しい使い方である。

(文:村上晃一)
■トークライブを行ったトンプソン ルーク選手と村上晃一氏 (写真:佐久間康之)

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