電車の運転もラグビーもしっかり。JR西日本運転士、康涼平さん
ラグビー好きにも『乗る』や『撮る』など鉄道ファン、『鉄ちゃん』は多いはず。
80年代後半にアカクロ着て、国立をわかせたヒロシ先輩もその一人。新幹線事業用車両の『ドクターイエロー』や東急世田谷線の青いチンチン電車の写真をせっせとFacebookにアップしてました。
康(こう)涼平さんはそんな人たちにとっては、『神』のような存在です。
JR西日本の運転士。勤務後はトップリーグの下部組織、トップウェストAに所属するレイラーズでLOとしてプレーしています。同チームには以前、新幹線の運転士もいましたが、今は唯一の存在です。
「毎日が楽しいです」
康さんは近畿大出身の29歳。約1年近い研修を終え、2013年に運転士として独り立ち。今年3年目を迎えました。
現在は大阪の京橋電車区に所属。大阪市内を回る環状線や京都の木津に抜ける学研都市線など6路線で運転士をつとめています。
勤務は昼ごろ出勤。夜まで運転を続け、終着駅で仮眠を取ります。朝は始発か早い時間から仕事を始め、昼ごろに乗務を終えます。この2日に渡る勤務を『泊まり』と言います。
そのまま、デスクワークや訓練などを続け、夜には神戸市の鷹取にあるグラウンドで練習に参加します。これが『明け』です。
この組み合わせが2回続き、連休がきます。4勤2休が典型的な勤務体制です。
「正直言えばしんどいです。でもお客さんの命を預かっている。そんなことは言ってられません。それに両立は部員のみんなもやっていること。接客力がないとしんどい駅員の方がもっと大変だと思います」
振り出しはJR阪和線の鳳駅勤務でした。車掌を経験して、運転士に昇格します。2つの職種ともに適性検査など4つの社内審査をくぐり抜けています。さらに、電車の運転をするには国が管理する『動力車操縦者運転免許証』を取得しなければなりません。康さんはもちろんパスしています。
大学時代、同社ラグビー部の先輩がリクルートに来たことや、「たくさんの人々の命を預かる仕事に携われる使命感」などから入社を決意。見事採用されました。
近大の恩師、中島茂総監督は言います。
「とにかく真面目。レギュラーを張ってたけど練習の手は抜きませんでしたな。それに康の学年はみんなが優しかった」
近大は15年ほど前から夏合宿の最終日、学年対抗の賞金(3万円)付きタッチフット大会をします。康さんは4年時に優勝しました。みんなで話し合ったお金の使い道は、中島総監督を含めた首脳陣一人一人の似顔絵入りTシャツ。プレゼントのためです。
「後にも先にもそんなことをしてくれたのはあの学年だけ。大体みんなで山分けしたり、一杯飲むかするんやけどね」
元になった絵は今、中島総監督のFacebookのメイン写真になっています。
真面目さ、優しさは列車を運行する上では必要不可欠の資質でしょう。
康さんの運転中のブレーキのかけ方に学生時代が映ります。電車のスピード制御は車の右足と違って、右手を使います。
「止まる時にヒザが『カクン』ってくるのはダメなんです。『すー』っと止まるような、衝動のないブレーキでないと。ブレーキレバーを引く時は、右手をゆっくりと緩めることも大切なんです」
急ブレーキは乗客の安全にも影響します。康さんはラグビーで学んだことを仕事でも生かしています。
ラグビーにつきものの骨折や脱臼などでの欠勤もありません。
「プレーは下手なんですけど、体だけは強いんです。これまで大きなケガはまったくしたことがありません」
普段から時間があればジムに通い、ウエイトトレーニングで183センチ、88キロの体の頑健さをキープしています。
気分転換はビール。練習後にみんなで行くJR鷹取駅前の立ち飲みがお気に入りです。
「お酒はそんなに強くないけど、好きです。もちろん乗務の前には飲みません」
JR西日本が所属するトップウェストAは5チーム構成。2回の総当たり戦(勝ち点制)でトップリーグ昇格に挑戦する優勝チームを決めます。
ファーストステージでJR西日本は1勝1敗で勝ち点5。首位は7-19で敗れた中部電力(勝ち点9)。リベンジを誓います。
「とりあえず、そこに勝つことを自分もチームもターゲットとしてやっています」
乗客の安全輸送に心を砕きながら、日々楕円球を追う康さん。セカンドステージでは名古屋のライバルに雪辱できますように。