「まさか僕が…だよね」。クレイグ・ウイング、世界を驚かす。
ダンディーな笑顔。強靱なプレー。(撮影/松本かおり)
ワールドカップと名の付くものは初めてだ。オーストラリアでラグビー・リーグ(13人制)のスター、トッププレーヤーとして長く活躍していたときも、怪我でチャンスを逃している。
「だから興奮しているんだ。これまで縁のなかった世界規模の大会に参加できる。ラッキーな人生だ」
クレイグ・ウイングは、日本代表のワールドカップメンバーが発表された後、そう言ってダンディーに笑った。
NTTコムに来日したのが2010年。2012年に神戸製鋼に移籍し、今季で日本での生活も6年目を迎えた。2013年からジャパンに招集。その春、桜のエンブレムを胸に付けてウエールズ撃破の立役者となる。昨年は怪我に悩まされ、今年に入ってもリハビリの日々は続いた。日本代表合宿でも別メニューでの調整を重ね、最後の最後にやっと間に合った。
昨年はジャパンでの試合出場なし(トップリーグの出場も4試合のみ)。実戦のピッチになかなか立てず、プレータイムも短い。普通ならアピール不足でスコッド入りを逃してもおかしくない状況だろうが、パシフィック・ネーションズカップの途中から短い時間で力を示した。心身のコンディションさえ整えばワールドクラス。エディー・ジョーンズ ヘッドコーチのそんな信頼は揺るがず、待望の舞台に立つ権利を手にした。
公称180?も、きっとそんなに大きくない。日本人選手とほとんど変わらぬ体躯ながら倒れぬ走り、ハードタックルを見せる。
「僕がラグビー・リーグでやっていたポジション(ハーフバックスやCTB)は、大きなFWにターゲットにされるところだったんだ。だから、彼らを止めるために必死に体を張り、立ち続けた。その経験が自分を強くしたと思う」
オールブラックスのソニー=ビル・ウィリアムズ、ワラビーズのイズラエル・フォラウ、イングランドのサム・バージェスなど、ラグビー・リーグで活躍していた選手も多く出場する今回のワールドカップ。彼らに負けぬパフォーマンスを見せたいと言った。
15人制のラグビー・ユニオンの魅力を、こう話す。
「ラグビー・リーグより、サイズに劣る側にチャンスがあると思っています。ミスマッチのような差があっても、戦術や工夫でなんとかできるのがラグビー・ユニオン。戦い方を工夫できるのもいい」
高校時代まではユニオンでプレーしていた。オーストラリア高校代表にも選ばれた才能の持ち主だがら、ユニオンとリーグの間にある差も、両者のプレーの肝も分かっている。結果で存在感を示す男だ。
「ジョージ・スミス(元豪州代表&元サントリー)やフィル・ウォー(元豪州代表)はオーストラリア高校代表時代の仲間だけど、もうみんなインターナショナルレベルからは引退した。まさか、この僕が(同期で)最後までプレーし、ワールドカップに出るなんて…誰も思わなかっただろうね。そして、オーストラリアではトップリーグなど日本のラグビーはほとんど報道されないから、僕が日本でプレーしていたり、ジャパンでワールドカップに出ることを知らない人もたくさんいると思う。テレビで大会を見ていて、『あーっ、ここにいた』とびっくりする人もいると思うなあ」
どうせなら、友人や知人、リーグ時代のサポーターだけでなく、世界中のファンを驚かせて。そのためには、世界の列強から勝利を奪い取るしかない。