コラム 2015.05.05

高校10人制大阪大会のヒーローたち。

高校10人制大阪大会のヒーローたち。

 第70回大阪高校総合体育大会の10人制(FW5人、BK5人で構成)の部決勝が5月3日、寝屋川市の同志社香里高校グラウンドであり、昨年15人制に出場した上宮が府立清水谷、高槻、初芝富田林の4校によるリーグ戦を全勝で制して優勝した。

 この日、ひときわ輝きを放ったのは府内でも有数の私立男子進学校である高槻だった。
 メンバーは3年生14人のみ。この大会を最後に引退して受験勉強に入る。
 1勝2敗の3位だったが、上宮に1トライ、2位の清水谷には1点差と高校最終戦にかける意気込みが伝わってきた。
 CTB齋藤圭吾は182センチ、86キロと大型ながらキッカーもつとめるアスリートだ。清水谷戦の前半4分にはタックラー2人を外して先制トライ。14−5の後半3分にはダミークロスから進路をタテに取る。左右から飛んできた2枚のディフェンスを跳ね飛ばし、約40メートルをゲインした。

 最終戦の初芝富田林を46−0と破った後、齋藤は汗をぬぐいながら笑顔を見せる。
「ラストを勝って終われました。落ち込んで終わりじゃなかったのでよかったです」
 小学4年時に甲子園チビッ子ラガーズクラブで1年弱ラグビー体験する。「その時はいやで、いやで」。中高一貫の高槻中では卓球部に所属した。高1の夏、三者面談の席で監督の池田匡伸から入部を説かれ、再び楕円球を持つ。その体幹の強さや動きの速さは本格的キャリア2年未満とはとても思えない。
 進路は「国立の工学系」。
 筑波という工学部があって、ラグビーも強い国立大学もあるんだけど?
「ああ、そうなんですか。ぼく、あまりラグビーに詳しくないんです」
 サントリーFL、佐々木隆道似の風貌から白い歯がこぼれた。

 高槻のクロスゲームは休部を前にした意地でもあった。1、2年生は0。中学には現在25人のラグビー部員がいるが、3年生11人の入学は来春だ。チームとして合同を含めた公式戦参加は来年度の全国大会予選からになる。夏の7人制、秋の全国予選、来年度の新人戦、春の総体と4つの公式戦は出場できない。
 監督の池田は視線を下に向ける。
「出たいですけどねえ」

 準優勝の清水谷は唯一の公立だ。12−19で上宮に敗れ、2勝1敗。2年生FBの山口魁生(かいせい)がチームを引っ張った。
 上宮戦では前半5分、左タッチライン際を抜けた相手に逆サイドから直線を引いて戻り、サイドタックルで吹き飛ばす。5点を防いだ。
「止めなヤバい、と必死でした。止められたからよかったです」
 0−7の同8分には大外へのスワーブで追撃トライを挙げる。
 毎朝45分続けるウエイトトレーニングでパワーとスピードを内包する180センチ、74キロの体を作り上げた。東大阪市にある英田(あかだ)中の出身。中学の偉大な先輩、日本代表キャップ79の元木由記雄(現京都産業大コーチ)をかすかに思い浮かべる。
 来年の進路は同志社大を希望。
「ラグビーをして、スポーツ健康学部でトレーナーなど選手を支える勉強がしたいです」
 プレー同様、将来も明確だ。

 頂点に立った上宮で将来性を感じさせたのは2年生WTBの東中知哉だった。3試合での獲得8トライ中実に5をマークした。50メートル走は6秒5だが、ボール勘がいい。抜ける位置に立ち、パスをもらう。
 高槻戦は5−7の後半2分、決勝となる50メートル独走トライ。右タッチライン際を駆け上がりマーカーを振り切った。清水谷戦でも14−12の後半終了間際、相手インゴール右隅にダメ押しのダイブを決めた。
「今までにない経験ができました。心の底から喜びが込み上げてきました」
 目標とする選手は「ステップが格好いい」松島幸太朗(サントリー)。自主的に腕立て伏せや腹筋を繰り返しながら、174センチ、67キロの体を憧れのジャパンに近づけていく。

 10人制FWはバックローの3人を除いたPR、HO、LO。グラウンドの大きさは15校が4ブロックに分かれて参加した予選は半面、決勝は正規。決勝のルールは15人制と同じ。前後半8分、ハーフタイム2分である。
 4月入学の新1年生は、「春の大会」と呼ばれるこの府総体終了の5月17日以降、選手登録され公式戦出場可能となる。そのため、2、3年生で15人を下回るチームは合同での10、15人か単独での10人を選択する。
 7人ではなく、10人制にこだわる理由を府高校体育連盟ラグビー専門部委員長の清鶴敏也(同志社香里監督)は話す。
「できるだけ15人に準ずる形に、ということで10人になりました」

 高校ラグビーのメインとなる今年9月の全国予選に高槻は出場できず、清水谷は合同、上宮は単独で出る見通しだ。初芝富田林を含めた3校はこの日の経験を秋に生かしたい。

【決勝リーグ結果】
上宮12-7高槻、清水谷26-12初芝富田林、上宮19-0初芝富田林、清水谷15-14高槻、上宮19-12清水谷、高槻46-0初芝富田林

(文:鎮 勝也)

【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社)がある。

【写真】
清鶴敏也大阪府高体連ラグビー専門部委員長(右)から優勝の表彰状を受け取る上宮主将・井本勇武。左端は5トライを挙げたWTB東中友哉

PICK UP