コラム 2015.04.21

【ラグリパ関西ライター/鎮勝也コラム】 ラグビーと勉強の関係

【ラグリパ関西ライター/鎮勝也コラム】 ラグビーと勉強の関係

 ラグビーと勉強って関係あると思いますか?
 難しい質問ですね。
 すぐに答えは出ないかも。
 ただ、取材をしていると、あるような気がするんですね。
 偏差値の高い低いではありませんよ。
 中学、高校なら授業や宿題、大学なら講義や課題、そして定期テストにどう向き合ったか、ということがラグビーの勝ち負けにつながるんじゃあないのかなあ。

 みなさんが知っているチームを例に取ってみましょう。
 大阪の東海大学付属仰星高校です。
 4月7日にあった全国選抜大会決勝で大阪桐蔭を21-0で下し、9年ぶり2回目の優勝に輝きました。3月の近畿大会優勝と合わせて2冠になります。公式戦は15連勝中です。

 ところが首脳陣はその勝利の理由をはっきり断定できません。新3年生を中学時代にリクルートした前監督の土井崇司さん(現東海大チームディレクター)は言います。
「なんでこのチームが勝っているかよく分からん。体も小さいしね。試合を見てたら『なんでそんなパスすんねん』と声を出すようなこともある。でも不思議とそのパスがつながってトライになったりしている」
 監督として2回、現監督の湯浅大智さんを補佐して1回、計3回の全国大会優勝を経験している55歳でも不思議なのです。

「仰星だから能力が高いんだろ?」
 そう考える人はきっと多いはず。でもこの3年生は土井さんが病気で長期入院して、勧誘に力を注げなかった時期の生徒たちです。土井さんは話します。
「選手のタレントは常翔学園、大阪桐蔭、桐蔭学園(神奈川)。今年の高校ジャパンはこの3校を軸に選ばれるんじゃあないかなあ」
 当然ながらサイズも他校と比べて大きいわけではありません。レギュラーメンバーのFWで180センチを超えているのは187センチのLO横井達郎君ただ1人です。

 その事実を踏まえた上で土井さんは今年のチームの特徴を口にします。
「3年生は勉強をよくする。クラス上位にラグビー部が入っているからね」
 キャプテンのFL眞野泰地君、ゲームキャプテンのSO岸岡智樹君、そして土井さんの娘さん、マネジャーの瑞季さんらが成績上位者に名を連ねます。3人の所属は2クラスある特進コースや1クラスの体育コースではありません。5クラスの総合(普通)コースですが、席次は常にトップに位置しています。
 眞野君は言います。
「できるだけ授業の中で覚えるようにしています。通学が1時間半かかるので、暗記物は電車の中でします。テスト前は授業開始の1時間前には学校について自習しています」

 なぜ勉強することが、チームの強さにつながるのか。
 それは教科書や参考書と格闘する時間が、試合で必要な集中力を生むからではないか、と私は考えます。読んだり、書いたり、考えたりを長時間続けると、一つの事柄に対して注意を長く傾けるようになってくる。
 ラグビーの中で同じようにできればミスは起きない。自滅がなければ、常に自分たちのペースで試合が進められるのです。同時に相手の穴も見えてくる。土井さんが言った「無謀なパス」は実はメンバーが切れない集中から導き出したアタックなのでしょう。

 仰星の専属トレーナーを20年以上つとめ、SA(セーフティー・アシスタント)として試合中のグラウンドで医療行為を補佐する竹内紀之さんは分析します。
「仰星が負けるパターンは大きいFWによるサイドの連続で突破。でも今年は突破されても、すぐに起き上ってディフェンスに戻る。立ち位置も湯浅先生に教えられた通り。それが試合の最後まで崩れないんですよね」
 集中が続くから、コーチング、そしてゲームプランを60分間遂行できるのです。

 湯浅さんは類似の視点から見ます。
「数学でどの方程式を使うか、というのが同じように試合時のプレー選択につながっているように感じます。今年は一線級でなくても、ラグビーの理解度は高いです」
 勉強をすることによって磨かれた頭脳はまた、戦術や戦略の吸収にも役立つのです。
 仰星が元祖のグラウンドを縦横に割り、アタックを決める「1、2、3、4、5アタック」、新チームから特化しているコンタクト強化、さらには2時間近くをかける宿泊時の食事などもその強さに影響はしているでしょう。
 でも一番の軸は「途切れない集中力」ではないのかな、と私は思います。

 人によって学習レベルは違います。大切なのはその差ではなく、自分のレベルでいかに勉強と向き合ったか、ということなのではないでしょうか。パワーやスピードをつけるのも大切ですが、頭を磨くこともどうか忘れないでほしいなあ、と思います。

 私? もちろん勉強なんてしませんでしたよ。だからラグビーでも人生でもアウトロー。おんなじになったらダメだよ。

(文:鎮 勝也)

【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社)がある。

(写真:東海大仰星は4月12日の大阪総体初戦で合同Hを126-0で破る)

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