国内 2015.03.10

トヨタWTB遠藤幸佑、復帰果たしてスパイク脱ぐ。

トヨタWTB遠藤幸佑、復帰果たしてスパイク脱ぐ。

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トヨタ自動車の仲間と記念撮影。元同僚、キヤノン・菊谷崇の姿も(撮影:早浪章弘)

 胴上げの回数は背番号と同じ、14だった。
 3月8日、日本代表で、トヨタ自動車でダイナミックな走りでスタンドを沸かせたWTB遠藤幸佑(34歳)がスパイクを脱いだ。ラストゲームとなったトップリーグオールスター戦は、15か月ぶりとなる復帰戦でもあった。

 遠藤が右ひざに大けがを負ったのは、一昨年12月15日のこと。ノエビアスタジアムで行われたトップリーグの神戸製鋼戦。神経は切れていたものの血管がつながっており、かろうじて切断は免れた。
 当初は普通に歩くことすら危ぶまれていたが、手術と懸命のリハビリを経て、今季グラウンドに戻ってきた。
「辞めるのは簡単。そこでチャレンジしたのは、もう一度桜のユニフォームを着たかったから」

 シーズン終盤には「8割くらい。練習もコンタクト以外はできる」までに回復した。だが、チーム側の判断で、今季限りで現役を退くことに。
「それは仕方ないと思います。水野(弘貴)もいるし、彦坂(匡克)とかいい選手も入ってきた。ただ、(今秋の)ワールドカップに出られなかったのが、本当に悔しい」

 オールスター戦には迷いもあったが、仲間から何度も誘いを受け、出場を決断。後半32分には両チームの選手に見守られながら、ワールドカップを思い出させるスライディングトライを決めた。
「みんなが道を開けてくれたから(笑)。ワールドカップのトライより、今日のトライのほうが嬉しかった」

 この日履いていたのは、神戸製鋼戦で履いていたスパイク。
「絶対にまたこの靴を履こうと思って頑張ったんです」
 スパイクの甲には、下肢とつなぐ装具がついている。神経が切れており、足を持ち上げられないからだ。
 セレモニーで花束を受け取り、両チームの選手から胴上げされた後、豊田から応援に駆け付けたチームメートの手によって、再び胴上げされた。春を思わせる青空の下。涙の時を経て、誰もが笑顔だった。
「1日1日出し切りました。しばらくは会社に戻って恩返しをして、また違う形でラグビーと関わっていけたら」
 遠藤幸佑は、まだまだあの力強いストライドで人生を駆け続ける。

(文:森本優子)

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