コラム 2015.03.02

「フルーツはまちゃん」 代表は元ラグビーマン

「フルーツはまちゃん」 代表は元ラグビーマン

 「フルーツはまちゃん」は大阪の下町、都島区にある知る人ぞ知る果物屋です。
 お店の代表、今年46歳になる浜崎輝由さん(はまちゃん)は元ラグビーマン。
 卸売会社で管理職としてイトーヨーカドーに果実を売りまくった後、2009年に独立。今年7年目を迎えるお店は「なにわ代表」になりつつあります。開店日には1400人弱が訪れた伝説を作り、店前の道は「はまちゃん通り」と呼ばれています。

 成長の理由はラグビーマインド。
「ラグビーって相手見て、ほんで智恵絞ってやるやん。カンペイも日本が考えたんやんなあ。商売も一緒なんよ。お客さんが何を求めているか考えんとな。あるもん売ってるだけなんやったら来てもらえへんのよ」
 はまちゃんはラグビー用語を交えます。CTBの背中越しにライン参加してきたFBにパスを出すカンペイは1970年代に日本代表が編み出しました。長野・菅平での夏合宿中だったので地名の音読みがつけられました。今でいうデコイ(おとり)。ラグビー歴の長さが垣間見られます。
 はまちゃんは府立盾津高校(現かわち野)からそのOBが母体となった盾津クラブでFLとして25年間プレーを続けました。

 約80平方メートルの店内はこの時期、イチゴやリンゴの赤、ミカンのオレンジなど明るい色彩にあふれます。南東2方向を道路に面しているため、気軽に入店。はまちゃんはタメ口でお客に親近感を持たせながら、質問に丁寧に答えます。目じりは常に下がっているので職人的な威圧感はありません。でも理論はあります。
「商売で利益を生む鉄則は人数×客単価なんよ。ほんならウチみたいな小売はいかにお客さんに来てもらうか、ってことなんや。つまり喜んでもらえるかってことよね」
 品定めの人数が二桁を超えるといきなりタイムサービスが始まります。ミカン1個10円、カキ1個50円。店の恒例を知っているお客は笑顔になり、手を伸ばします。
「ラグビーやったらスクラムなんかのセットプレーで勝ったら、試合には負けへんやん。それは鉄則や。ウチもお客さんに来てもらう鉄則、言い換えるんやったら基本を続けているだけやねん。店がお客さんを選ぶんやない。お客さんが店を選ぶんやで」
 先月28日の日本選手権決勝ではスクラムを押し、ラインアウトをキャッチしたヤマハ発動機がサントリーを破り初優勝しました。はまちゃんの哲学とかぶります。

 はまちゃんがラグビーで得て、ビジネスでも軸にしている教えは4つあります。

(1)体力
「これがないとメンタルがついてけえへん。取引先に億劫な電話ができひんなあ。高校時代に『ラスト』と言われてから、『もう1本、2本行こうや』というのが生きてる。あん時はしんどかったけどなあ」
 はまちゃんは暇を見つけてランニングや腕立て伏せ、腹筋背筋を欠かせません。

(2)向上心
「やっぱり『もっと、もっと』の気持ちを持たんとな。現状に満足したらアカン。さらにさらにええサービスをしていかな。神戸製鋼の7連覇もその気持ちがあったからできたと思ってる。上手い、下手ではなく自分のレベルを高めるようにせんとな」
 例え話で神鋼を持ち出すところは、はまちゃんはやっぱりラグビー好き。

(3)自主性
「ラグビーが野球やバレーなんかと違うところは試合のホイッスルが鳴ったら、ヘッドコーチから指示を仰げんことや。自分らで考えなアカン。仕事でも社長の指示を待っているようやったらダメなんよ」
 荷物の発送が終わった夕方遅い時間に配送を頼んだら、「よっしゃ」とはまちゃんは自分の車で宅急便屋に持ち込んでくれます。もちろん無料。生モノ商売なので素早く送れる手配を自主的にします。

(4)責任感
「ラグビーはポジションごとの役目を果たさなアカンよなあ。仕事でも自分に課せられたことをまっとうせんとな。成功、失敗やない。すごい選手に全力でタックルに行って外されても、思いっきりやったら次のヤツが入りやすいよなあ。でも逃げたタックルやったら、ステップ切られてトライされてしまう」
 日本では季節外れのこの時期にマンゴーを頼めば、日本と気候が逆の南半球のオーストラリア、ペルー産の両方を取り寄せ、試食してからお客さんに薦める方を決めます。

 はまちゃんは毎朝4時30分起き。野田や茨木の卸売市場に出向き仕入れをします。開閉店は9時〜7時。定休日の水曜以外は店頭に立っています。思いはただ一つ。
「果物を家庭の中でもっと身近にしたいんやなあ。果物って人を幸せにする力があるんさ。『スイカ切るからおいで』って言うたら、理由はようわからんけど3分でも5分でもみんな集まるやん。もらったら嬉しいやん。そういうもんなんよ。だからもっとみんなに安くで食べてもらいたいんや」
 赤のダウンにコットンレギンス、お客さんからもらった黒地に白で縄目をあしらったエプロンとファッションもお客さん同様に気を配るはまちゃん。ラグビーでの体験をベースにフルーツ界に革命をもたらします。

(文:鎮 勝也)

【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社)がある。

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