コラム 2015.02.03

大阪朝鮮高級学校の挑戦

大阪朝鮮高級学校の挑戦

 大阪朝鮮高級学校(以下朝高)は1月3日、負けずに花園を去った。

 大阪府第一地区代表として臨んだ第94回全国高校大会準々決勝で尾道に12-12(前半は5-0)。引き分け後の抽選で、「次戦への出場権なし」を引いた。果たせなかった4強戦への思いは広島県代表に託す。
 5日の準決勝、朝高の3年生はバックスタンドの尾道応援席で、1、2年生はメインスタンドから声をからした。結果は優勝する東福岡の前に12-40。それでも激しいシャローディフェンスで、後半17分まで12-12と奮闘したチームの後押しにはなった。

 あれから1か月が過ぎた。
 朝高は1月25日、第66回近畿大会大阪府予選兼新人戦に新チームとして初登場。2回戦で府立摂津を66-5、2月1日の準決勝で早稲田摂陵(以下摂陵)を67-0と破り、順調に8日のCブロック決勝に進んだ。

 摂陵戦の後、主将に選ばれた安昌豪(あん・ちゃんほ)は尾道戦を振り返った。
「押していた前半に1トライしか取れなかった。あそこでもう何本かトライを取り切れていれば、ベスト4でした。そのチャンスはありました。でもモノにできなかった。あの試合では取り切ることの大切さを教わりました」
 摂陵戦では前半3分、FL金亮志(きむ・りゃんじ)の5点で先制すると、前半6回、後半5回、相手インゴールを陥れる。
 摂陵監督の廣瀬壽哉はつぶやいた。
「もう少しやれると思ってましたけどね」
 全国大会ではない。ただの府予選。それでもアカクロの戦術を授けられた相手からコンスタントに得点を挙げた。加点機を逃さない。番狂わせをもくろんだ敵将を沈ませたところに反省を踏まえた成長が透ける。

 安は1月24日に発売されたラグビーマガジン3月号で花園ベストフィフティーンに2年生ながら選ばれた。寸評は「高い潜在能力。接点の強さはチームでも屈指」。新チームでは左から右PRに変わった。スクラムでは自分の前が1人から2人に増えたが、177センチ、105キロのボディーは苦にしない。
 摂陵戦の前半24分、ボールをもって約30メートルをゲイン。ステップで1人をかわし、1人を飛ばした。スクラムは圧倒する。
 後に試合を控えていた大阪桐蔭監督の綾部正史は思わず声を上げた。
「安君はいい。1、3番どちらもいけるのも心強い。1番として見れば、あんなになんでもできる選手はいない。将来が楽しみです」
 合同練習や試合をよくする、仲間にしてライバル指導者の言葉は社交辞令ではない。

 安をキャプテンに据えた理由を監督の呉英吉(お・よんぎる)は語る。
「彼には覚悟があります。1番遠い所から通って来ているのに、朝練習を欠かさない。ウチに一番大切なハートを持っている子です」
 兵庫県ラグビースクール出身の安は、神戸市北区の自宅から東大阪市の学校まで片道2時間をかけて通学している。それでも7時20分から自主的に始める朝練習に遅れない。8時30分までの1時間10分の間、石段でのスクラムの姿勢などを黙々とこなす。
「すごいねえ。よく頑張るねえ」
「いや全然です。大変なのは僕より早く起きて朝ごはんを作ってくれるお母さんです」
 今年の朝高の先頭には人物が立つ。

 FWの安とともにBKの軸になりそうなのは同学年のFB金秀隆(きむ・すりゅん)だ。金は摂陵戦で前半5分の40メートル独走を含め、4トライを記録した。
「公式戦で4つ獲ったのは初めてです。うれしいです」
 185センチ、73キロの大型フィニッシャーは笑顔を浮かべた。

 尾道戦にはWTBで出場した。
 金も学びを生かしている。
 摂陵戦の後半11分、敵陣22メートル付近で、トイメンが詰めて来た、と判断した瞬間、ストレートを右へのインサイドランに変え、SO呉嶺太(お・りょんて)から手渡しに近い形でパスをもらう。50メートル走6秒1の速さで一瞬にしてマーカーを振り切り、ゴールラインを超えた。
「尾道戦で飛び出してくるディフェンスに対しては直前にコースを変えれば、当たらない、ということが分かりました。あの場面ではそれが出たと思います」

 会場になった摂津高校には天理大学監督の小松節夫が姿を見せた。金のランニングに目を奪われる。
「走り方が柔らかいよねえ。ああいうのは教えてできるものではない。天性ですよ」
 小松は日本代表キャップ28を持つSO立川理道らを育てた。その52歳をうならせた才能。最終学年に期待がふくらむ。

 引き分け、抽選、そして2014年度チームの解散。4大会ぶり3回目のトップ4に入れなかった悔しさや悲しさは朝高に今でも残る。それでも全てを教訓にして先を見据える。
 切れず、つなげる。
 それこそが朝高の強さの秘訣でもある。

(文:鎮 勝也)

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選手たちに語る呉英吉監督

【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社)がある。

〔トップ写真:大阪朝高の新主将になったPR安昌豪(左)と大型BK金秀隆〕

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