初もの尽くしのドコモ勝利
1月25日、東大阪市の近鉄花園ラグビー場では、日本選手権の出場権をかけたワイルドカードトーナメント1回戦2試合が行われ、NECグリーンロケッツとNTTドコモレッドハリケーンズが2回戦に勝ち上がった。前日(24日)、サントリーサンゴリアスが近鉄ライナーズを、リコーブラックラムズがNTTコミュニケーションズシャイニングアークスを破っており、1月31日、近鉄花園ラグビー場で行われる2回戦は、NEC対NTTドコモ、サントリー対リコーというカードになった。勝った2チームが、2月8日に開幕する日本選手権に出場する。
25日、4チームの中でも際立ったパフォーマンスを見せたのが、大阪を本拠地とするNTTドコモだった。ファーストステージでは7戦全敗でプールB最下位。しかし、徐々に調子を上げ、セカンドステージのグループBでは5勝2敗で3位に食い込み、4年連続の入替戦を回避した。この日も、グループA・6位のトヨタ自動車ヴェルブリッツに対して、序盤からアグレッシブに仕掛け続けた。
開始1分、CTBパエア ミフィポセチのトライで先制すると、反撃に出たトヨタ自動車のパスをWTB茂野洸気がインターセプトしてトライし、14-0とリードする。トヨタ自動車もドライビングモールからFL安藤泰洋がトライするなど14-10と迫ったが、NTTドコモは、今季2試合目の出場となったSOマイケル・ホッブスの好判断のパス回しでワイド展開。WTB渡辺義己の2トライを含む計5トライで快勝した。
過去3年、入替戦に回っていたNTTドコモのゲームキャプテン才口將太は、入替戦とワイルドカードの違いについて聞かれて、こう答えた。「過去3年間はリーグ終了後、入替戦までプレッシャーを感じながら練習していました。それは今季のセカンドステージでも変わりませんでした。あと一つでも負けていれば入替戦だったかもしれません。今年はワイルドカードに臨めるということで、この1週間、いい練習ができましたし、(降格を気にせず)思いきりプレーできるという違いはあったかもしれません」
その言葉通り、この日のNTTドコモはのびのびと「グラウンドを大きく使ってスペースを探す自分たちのラグビー」(才口)を表現し、フィールドを縦横無尽に駆け回った。「トヨタはディフェンスのいいチームです。しっかり相手陣に入り、入ったら『アタック・シェイプ』を使ってトライを狙う。攻める意識を持つことを重視しました」(下沖正博監督)。
〔※ アタック・シェイプ=複数の選択肢を持ちながら、パスを多用して攻撃をリサイクルする戦術〕
初のワイルドカード進出で初勝利。そして、トップリーグの公式戦でトヨタ自動車に勝ったのも初という、NTTドコモにとっては初もの尽くしの試合となった。いったい何が変わったのか。下沖監督に尋ねると、こんな答えが返ってきた。「練習が変わったと思います。ファーストステージでは戦術・戦略を理解していても、それを実行するスキル、状況判断が課題でした。ウインドウマンス(11月)でスキルを修正し、セカンドステージでも練習のスタンダードを落とすことなく、日々の練習を積み重ね、スキル面をおろそかにせずに取り組んできた成果です。今はミスを許さない雰囲気があります」
そういえば、この日のNTTドコモの選手たちは難しいパスを、ほとんど落球しなかった。ふと、日本選手権7連覇時代の神戸製鋼が思い出された。僅かなミスも許さない、張り詰めた緊張感の中で練習が行われていたからだ。勝つチームは、必ず質の高い練習をしている。そんな当たり前のことを再確認させてくれるNTTドコモの勝利だった。
■ワイルドカードトーナメント1回戦結果(1月25日/大阪・近鉄花園ラグビー場)
・キヤノンイーグルス● 10-14 ○NECグリーンロケッツ(前半0-11)
・トヨタ自動車ヴェルブリッツ● 27-36 ○NTTドコモレッドハリケーンズ(前半10-26)
【筆者プロフィール】
村上晃一(むらかみ・こういち) ラグビージャーナリスト。京都府立鴨沂高校→大阪体育大学。現役時代のポジションは、CTB/FB。86年度西日本学生代表として東西対抗に出場。87年 4月ベースボール・マガジン社入社、ラグビーマガジン編集部に勤務。90年6月より97年2月まで同誌編集長。出版局を経て98年6月退社し、フリーラン スの編集者、記者として活動。ラグビーマガジン、ナンバー(文藝春秋)などにラグビーについて寄稿。J SPORTSのラグビー解説も98年より継続中。99年、03年、07年、11年のワールドカップでは現地よりコメンテーターを務めた。著書に、「ラグ ビー愛好日記トークライブ集」(ベースボール・マガジン社)3巻、「仲間を信じて」(岩波ジュニア新書)などがある。BS朝日ラグビーウィークリーにもコ メンテーターとして出演中。