コラム 2014.12.21

おかしなくらいの情熱  直江光信(スポーツライター)

おかしなくらいの情熱
 直江光信(スポーツライター)

 この秋は、「強くなるドリル・シリーズ 高校ラグビー2」(ベースボール・マガジン社刊)の取材で、多くの高校を訪問した。全国大会予選を控えた大切な時期というのに、お願いしたチームはいずれも快く取材を引き受けてくださり、こちらの面倒な注文にもいやな顔ひとつせず対応していただいた。おかげさまで貴重なお話を数多くお聞きすることができました。この場を借りてあらためてお礼申し上げます。ありがとうございました。

 取材を通してつくづく実感したのは、チームを率いる指導者の方々のとてつもない「情熱」だ。どの監督さんもコーチも、まあとにかく熱かった。いったいこのエネルギーはどこから湧き起こってくるのかと感服することが、何度もあった。

 高校の指導者といえば当然ながらプロコーチではないから、みな本業の仕事をこなしつつ、残りの時間を使ってラグビーの指導にあたることになる。多くの場合は学校の先生で、朝から授業を行い、クラス運営や生活指導にも心を配って、ほっと一息つく暇もないまま夕方からはグラウンドで練習開始だ。週末になれば学校は休みになるが、そのぶん試合や遠征が入る。休みなんてほとんどない。

 以前、全国制覇の経験を持つある強豪校の監督の、こんなつぶやきを聞いたことがある。
「僕はこの13年間、1日も休んだことがありません」。
 まるで冗談を言うような調子だったので最初は冗談かと思ったのだけど、続きを聞くとそうではなかった。「練習が休みの日でも学校はありますし、週末でチームも休みという日は、中学生の試合を見に行ったりする。まとまったオフがあれば、どこかの講習に呼ばれたり、よその練習に参加したりすることもあります。まあ、自分が好きでやってるんですけどね」

 現象だけとらえれば、近年問題の「ブラック◯◯」を想像しそうだが、そうではない。もちろん自慢話の類とも違う。とにかくラグビーが、コーチングが好きで仕方がないのだ。「13年一度も休みなし」は、とめどなくあふれる情熱の結果である。その証拠に、そう語りながらも苦労の色はまるでなく、実に楽しそうなのだ。

 今回取材にうかがったチームの指導者からも、同じような雰囲気はひしひしと感じられた。これほど楽しいことは他にはない。だから休みなどなくても気にならない。そんな感覚。「どんなに遅く帰宅しても毎日必ず1試合、ラグビーのビデオを見る」という監督がいれば、「家族を気にせずひとり落ち着いてラグビーの事を考えるために毎朝4時半に起床する」という監督もいた。おそらくは高校に限らず様々なカテゴリーで指導にあたっているコーチにも、同様の人は多いだろう。

 こうした話に触れるたび、コーチにもっとも必要な才能は「情熱」なのだと思う。コーチングの理論や方法は後からいくらでも学ぶことができるけれど、情熱だけは人から与えられるのではなく、自分で生み出すしかない。そして、そうした熱の塊のような方々のおかげで、日本のラグビーは支えられている。

 12月27日、今年も花園ラグビー場で全国高校大会が開幕する。出場校の指導者やスタッフ、選手の中には、きっと「13年休みなし」の監督と同じ人種がゴロゴロいるはずだ。おかしなくらいの情熱と情熱がぶつかって、おかしなほどの感激を呼ぶ。あの熱狂の日々が、もうすぐ始まる。

【筆者プロフィール】
直江光信(なおえ・みつのぶ)
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。

(写真撮影:BBM)

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