コラム 2014.10.06

創立125周年の関西学大、徳永らが躍動。 目覚めるか近大

創立125周年の関西学大、徳永らが躍動。 目覚めるか近大

 個の力に導かれ、関西学院大学は2014年初戦を圧勝した。
 関西大学ラグビーAリーグは5日、大阪・花園ラグビー場に全8チームを集めて開幕。2009年以来5年ぶり10回目のリーグ優勝を狙う関西学大は近畿大学に52−19。前半17分、FL徳永祥尭(よしたか、4年・関西学院)が今季チーム初トライを挙げた。トップリーグにならって、今年から新設されたマン・オブ・ザ・マッチにも輝く。U20、ジュニアジャパンと順調に世代の代表に選出された最上級生がチームアタックの先頭に立った。

 185センチ、102キロの巨躯がオープンから斜めに一気に突っ込んで来る。SH徳田健太(3年・関西学院)がボールを浮かす。ラックサイドすれすれを突破して裏に抜けた瞬間、徳永は左足で青芝を蹴ると外に切った。ゲインした敵陣22メートルライン付近で1人、突破後に1人と追いタックルを弾き、左中間インゴールに飛び込む。イン・アンド・アウトのコース取りのよさにセンスがにじむ。
 鋭さと強さだけではない。パスができるのも強みだ。前半25分、FKからの速攻で、8分前の再現を阻止すべく集まったディフェンダー3人を引き付け、WTB中野涼(3年・東福岡)にトライへのラストパスを放った。
「オフェンスは得意です。1回生(年生)から試合に出させてもらったのは、その部分を見込まれてでしたから」

 徳永は50−7と大勝した6月8日の青山学院大学との定期戦で左ヒザを痛めた。本格的な実戦復帰は14−10と勝った9月7日の大阪府警戦。その3か月の間、ウエイトトレーニングに没頭する。1日2回、3時間近くをバーベルと格闘。ベンチプレスのMAXは130キロから20キロ増の150キロを差し上げるようになった。推進力は増す。
「体がしっかりしたような気がします。練習後も体重が減らなくなった」
 99キロから3キロ増量は筋肉による。激走を重ねた後、ルーズ・ウエイトにならないのはそのためである。災いを福に変えた。

 ただし自身はこの日のパフォーマンスに納得していない。
「大阪府警戦は出ただけ。コーチにも言われましたが、動きとしては0パーセントでした。今日もまだ30パーセント程度。一日も早く上げていけるようにしたいです」
 関西学大監督・野中孝介の採点も普通。中心選手として目標設定が高いためだ。
「徳永はまあまあでしたね」
 まだフィットしていないことを認めた上で続ける。
「彼はねえ、豪快なように見えて、実は繊細。東京で試合があった時、ホテルが一人部屋だったのですが、『二人部屋に変えて下さい。眠れません』と言ってきた」
 繊細さは名選手に必要な資質である。周囲の状況の変化に敏感に反応するのは、ラグビーの試合中に相手の強弱をつかむのに役立つ。セカンド、バックローをこなせる徳永は関西学大の顔でもある。攻守の軸が鈍感では勝ちはおぼつかない。

 関西学大は昨年リーグ戦4位。第50回大学選手権では5連覇の帝京大学に5−78、関東リーグ戦3位の大東文化大学にも24−45で敗北し、セカンドステージでシーズンを終えた。徳永も悔しさを味わう。
 今年は大学創立125年。記念すべき年に昨年の雪辱、そしてまずは関西王者につきたい。第2戦は12日、大阪・鶴見緑地で10−25と京都産業大学に敗れた摂南大学と対戦する。

 昨年8位の近大は総監督・中島茂が学内最高責任者の一人、理事に名を連ねる関係で、学校行事が優先され、開幕戦参加ができなかった。指揮官不在の状況では士気は上がらない。前半12分にこそ、敵陣ゴール前のモールからFL立花拡聖(2年・御所実)が先制トライを奪ったが、その後5連続でインゴールを陥れられ、前半で12−31とほぼ試合を決められる。観戦した同志社大学元監督で現GMの中尾晃は声を上げた。
「近大のディフェンスはどうして並んで見てるんや。もっと前に出て刺さらんと。関学に食い込まれとるやないか」
 徳永などへのタックルはほとんどが受け身。引いて倒す分、関西学大のボール・リサイクルと前進を容易にさせた。
 FWリーダーをつとめた稲垣大海(3年・天理)は唇をかむ。
「最初は飛び出すつもりでした。でも関学のスピードが予想より速く、前に出たら抜かれる気がしてしまった」
 外野よりも当事者の皮膚感覚が優先はされる。しかし、相対的に力の劣るチームが勝利を手繰り寄せるには、やはりプッシュ・アップすべきではなかったか。プレッシャーの中で正確なプレーができる大学生はそうはいない。抜かれれば返ればよいのだから。

 近大は今年からスクールカラーをマリンブルーに定め、看板クラブの野球も含め全クラブに色変更を指示した。ラグビーもエンジから変わったが、ファースト・ゲームを白星で飾れなかった。稲垣は課題を口にする。
「まずはディフェンスの強化です」
 次戦は関西学大と同じく12日、鶴見緑地で京産大と対戦する。今季初白星の鍵は攻撃的な「アタックル」にある。

(文:鎮 勝也)

【筆者プロフィール】
鎮 勝也(しずめ・かつや) スポーツライター。1966年生まれ。大阪府吹田市出身。6歳から大阪ラグビースクールでラグビーを始める。大阪府立摂津高校、立命館大学を卒業。在阪スポーツ新聞2社で内勤、外勤記者をつとめ、フリーになる。プロ、アマ野球とラグビーを中心に取材。著書に「花園が燃えた日」(論創社)、「伝説の剛速球投手 君は山口高志を見たか」(講談社、14年10月発売予定)がある。

(写真:2014年度 関西大学A開幕戦 関西学院大×近畿大/撮影:早浪章弘)

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