コラム 2013.10.17

光った人たち。2013年秋  向 風見也(ラグビーライター)

光った人たち。2013年秋
 向 風見也(ラグビーライター)

 オールブラックスがやって来る。11月2日、東京は秩父宮ラグビー場で世界最強とされるニュージーランド代表が屹立するのだ。

 対戦する日本代表勢にとって、所属先でプレーする国内シーズンは大一番に出るためのアピールの舞台でもある。現実的にメンバー入りが叶わぬ若手も、ローカルな舞台で世界を見据えていよう。無論、いまいるクラブのため、自分の生活のため、必死にいまを生き抜く「現状はノンキャリア」の人も、入場料に十分な付加価値をつけている。



 以下、取材ノートに記された日本最高峰のトップリーグ(TL)や各地大学ラグビー序盤戦の光のほんの一部だ(敬称略、順不同)。


 



 ジャック・フーリー(神戸製鋼、CTB)。いつもトライを取れそうな、もしくは大きく空いたスペースを射抜く。視野と判断と仲間との連携の合わせ技か。チームメイトによれば「ディフェンスの範囲も広い」とのことで、前所属先のパナソニックでも「練習で、チームが大事にしているキーワードを繰り返し発言してくれる」とスタッフからの評判は上々だった。10月6日、大阪・近鉄花園ラグビー場でのTL第5節。チームは後半、トヨタ自動車に突き放され10−43で敗れる。現地に行かなかった者の想像でしかないが、南アフリカ代表CTBがハーフタイムで退いたこととも無関係ではないような。 


 



 マーク・ジェラード(豊田自動織機、SO)。今年度3季ぶりに昇格したチームは開幕5連敗も勝点6を奪取。4トライ以上で得られるボーナスポイントを稼いでいるのだ。そこでオーストラリア代表24キャップ(国同士の真剣勝負への出場数)の万能BKは、CTB大西将太郎らと頻繁にポジションチェンジを繰り返し、人の群れを突っ切るスキル、度胸、身体をアピールしている。普段は「練習がダレたら怒鳴り散らしてくれる。コーチは助かっています」と田村誠監督。昨今の外国人のトレンドは「チームマンになれるビッグネーム」か。


 



 山本幸輝(ヤマハ発動機、PR)。10月6日、盛岡南公園球技場では昨季TL準優勝の東芝に勝った(○33−17)。この新人、明るい性格でチームを盛り上げていたようだ。「エイトマン! エイトマン!」。近大時代から「スクラムは8人でまとまって組むべし」という意の掛け声をあげていた。見学に訪れたヤマハで、元日本代表PRの長谷川慎FWコーチから助言されたためだ。「大変失礼なのですが、あの時は慎さんのことをよく存じ上げなくて…。大変、残念な顔をされていました」。そしていま、背番号1のレギュラーとして真っ向勝負を繰り返す。「学生時代からエイトマンと言わせてもらっていましたが、いまはそれをより意識しています」


 



 デウォルト・ポトヒエッター(ヤマハ発動機、LO/FL/NO8)。元南アフリカ代表の巨躯。前述の東芝戦、力自慢の相手を向こうに接点でガシガシとぶち当たる。敵陣営の激しさの権化、LO大野均は舌を巻いた。「激しい選手だなって」


 



 児玉健太郎(慶應義塾大、FB)。1年時からレギュラーも、望まない雌伏の時を過ごしてきた。が、その間に身体を大きく、強くした。9月15日、東京は秩父宮ラグビー場。関東大学対抗戦Aの初戦で、昨季大学選手権準優勝の筑波大に20−12で勝利。この人のロングキックが冴えた。以後、圧倒的な劣勢を打破できる人となれるか。 


 



 松田力也(帝京大、SO/WTB/FB)。10月6日、東京は上柚木公園陸上競技場である。日体大を147−0で下した対抗戦Aの3試合目ではWTBとして先発し、後方でキックを補球した仲間へのサポート、複数人の相手を巻き込むグラウンド外側から内側へのランと、岩出雅之監督いわく「忙しいプレー」に精を出した。本人はFBを希望も、スキルの高さを活かして司令塔もこなせる。まさに「1家に1人、云々」である。


 



 石井魁(東海大、WTB)。9月中旬、日本代表の練習生となり「ボールタッチの回数を増やすべし」と再確認した。10月12日、埼玉・熊谷ラグビー場での関東大学リーグ戦1部・日大戦では、6トライ(○77−17)。


 



 具智元(拓殖大、PR)。グ・ジウォンと読む。日本文理高から入学するや春先から背番号3のレギュラーになった。スクラムの際、背中を地面と並行なラインに保ち、押す。押す。身長184センチ、体重122キロと大人の体躯。早期での日本代表入りを目指しており、エディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(HC)が謳う攻撃的ラグビーに適応すべく身体を絞りたい、とも。関東大学リーグ戦1部で開幕3連敗中のチームにあって、TLクラブのスカウトから早くも着目されている。


 



 山田章仁(パナソニック、WTB)。南アフリカ代表48キャップのCTB、JP・ピーターセン(この人もまた光)が身軽な巨躯を活かして守備網を割く。刹那、隣でパスを受け取りにこの人が走る。他の味方が球を奪った瞬間もまた、斜め後ろからさりげなくサポートに入る。日本代表のジョーンズHCから「ボールタッチを増やせ」と言われ丸2年が近づく。敵に捕まった際に味方へどうボールをつなぐかも今季のテーマとしており、飛んだり跳ねたりせずとも自身の商品価値を高めている。


 



 ホラニ龍コリニアシ(パナソニック、NO8)。以前に怪我をした膝の調子がいいようで、結果、持ち前の突進と深く踏み込んでのタックル、ボールへの絡みができるようになった。調子いいですね。「そうすか。たまたまっす」。第一声は相変わらず。


 



 立川理道(クボタ、SO/CTB)。TL第3節以降はSOで先発。天理高からの同級生であるSH井上大介とともに縦に、縦にと推進しながらゲームを組み立てる。「ゲインライン(相手の守備の近く)で勝負」。言葉通りの立ち位置と走り。


 



 セイララ・マプスア(クボタ、CTB)。現役サモア代表の突破役。対戦した相手の1人は証言する。「寝ている味方のFWを立たせてディフェンスのポジショニングを促し、自分は一番遠い、しんどい場所をカバーしに行く。男気あります」。こちらにも「チームマンのビッグネーム」。


 



 村田毅(NEC、LO/FL)。9月14日、秩父宮。TL第3節にて、日本選手権と合わせ2季連続2冠のサントリーを下す。34−33。チームは、相手の作る守備網のうちFWとBKの切れ目が薄いと分析。その隙間へ、身長185センチ、体重103キロのLO村田がぐいぐいと突っ込む。この人は最近、身長184センチのFL浅野良太主将から、ラインアウトのサイン発動役を受け継いだ。「大きい」以外の理由で空中戦を制するロジックを、改めて学び直している。


 



 田村優(NEC、SO/CTB)。新加入のSOウェブ将武が正確なキックとセーフティファーストな判断で試合を進めるなか、この人は持ち前の嗅覚でスペースを射抜く。学生時代から得意だったパス、キックに加え、クボタでジャパンの立川と同様ゲインラインを飛び越えるランを連発。「TLでもインターナショナルなプレーを」。ジョーンズ日本代表HCのそんなリクエストに答えたいと、強い意欲を示す。


 



 佐々木隆道(サントリー、FL)。接点で相手のサポートの下へ潜り込み、ボールを奪ったり確保したりする。「パッと見、わかりにくいと思うんですけど」と自認するそうした働きで、クラブの肉弾戦をリードしたいという。ようやく体重を100キロ台に乗せ、ジャパンのジョーンズHCがFW第3列に求める最低限の重さを獲得した。目指すは、あくまでインターナショナルプレイヤーだ。


 



 箕内拓郎(NTTドコモ、NO8)。2003、07年ワールドカップの日本代表主将も、御年37歳。ボール争奪局面で暴れ、球を持てば優雅に駆け、途端、スペースに味方の取りやすそうなパスを放つ。体調、いいらしい。


 


 


 


【筆者プロフィール】
向 風見也(むかい・ふみや)
ラグビーライター。1982年、富山県生まれ。楕円球と出会ったのは11歳の頃。都立狛江高校ラグビー部では主将を務めた。成城大学卒。編集プロダクション勤務を経て、2006年より独立。専門はラグビー・スポーツ・人間・平和。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)がある。技術指南書やスポーツゲーム攻略本の構成も手掛け、『ぐんぐんうまくなる! 7人制ラグビー』(岩渕健輔著、ベースボール・マガジン社)、『DVDでよくわかる ラグビー上達テクニック』(林雅人監修、実業之日本社)の構成も担当。『ラグビーマガジン』『Sportiva』などにも寄稿している。


 



(写真:日本代表への階段を着実に上っている帝京大ルーキー、松田力也/撮影:BBM)

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