国内 2013.09.06

急げ! 愛あふれる『美大ラグビー部員による美術展』は10日まで。

急げ! 愛あふれる『美大ラグビー部員による美術展』は10日まで。

武蔵野美術大学ラクビー部主将、山田祥平さん。自身の作品『ラグビー賛歌』とともに。

 

 

 上野駅と鶯谷駅の間に素敵な空間があった。

 

 ガタンゴトン。電車の走る音が聞こえる。カンバラビル(東京都台東区上野公園18-10 )の3F。エレベーターの扉が開くと、ガランとしたスペースがあった。個性的な作品が飾られていた。

 

「すべてラグビー部員たちの作品です」
 受付の方の口調が柔らかかった。
 9月4日から、『美大ラグビー部員による美術展』が開催されている。展示されているものは、横浜美術大学、多摩美術大学、武蔵野美術大学、東京芸術大学、東京造形大学のラグビー部員の手によって描かれたり、作られたもの。『美術大学ラグビー部を強くする会』の主催で、9月10日まで開かれる(各日/11:00〜19:00)。

 

 9月6日の午後、受付に座っていたのは武蔵野美術大学ラグビー部の主将、山田祥平くんだった。
 同大学の造形学部建築学科に学ぶ。成城高校で始めたラグビー。同校では1年半プレーし、第2センターの位置に就いた。武蔵野美大に進学しても楕円球を追う。部は10人の登録も、普段から活動しているのは4人だけ(うち女子マネージャーひとり)。人数不足は、各美大共通の悩みである。

 

 かつて東京の美術大学ラグビー部は、『五美大ラグビー杯』を争う、五美大リーグ(東京芸大、武蔵野美大、多摩美大、日大芸術学部、東京造形大)を戦っていた。そのタイトルを、どのラグビー部も春の最大のターゲットにしていた。しかし前述の通り、いまでは部員不足の学校ばかり。どこも、単独チームでは練習も試合もできないのが現状だ。

 

 そんな状況に変化が起こったのが昨年だった。

 

 東京芸大ラグビー部が、周囲の美大に「合同練習しませんか」の声をかける。それをきっかけに毎月第3土曜日、横浜美大、多摩美大、武蔵野美大、東京芸大が持ち回りで、各大学のグラウンドに集まるようになった。東京造形大に部はないが、在学のラグビー経験者数人も足を運ぶ。

 

 自分たちだけでは身動きが取れなかったけれど、横のつながりが出来てからは、全国の美大が集まる『四芸祭』(東京芸大、京都市立芸大、愛知県立芸大、金沢美術工芸大)に東京芸大(合同)チームとして出場できるようになった。OBを交えての5大学大会も開催する。
「そうやっていろんな仲間が出来て、今回は、その仲間の作品を見られる。僕ら自身も楽しみにしていた美術展です。これまで、個々のことは深くは知らなかったけど、新たな面を見て、余計に深く付き合える気がしています。来年以降も続けていけたらいいですね」(山田さん)

 

 

 

 会の開催に知恵と勇気を与えてくれたのは、主催である『美術大学ラグビー部を強くする会』の中心、三浦大和さんだ。
 武蔵野美大、東京芸大大学院を卒業、美大ラグビーでプレーしていた同氏は、慶応義塾中等部の指導にもあたった情熱家であり、一流の芸術家だ。活気のあった昔の美大リーグとは違い、思うように活動できぬ後輩たちに対しても、いつも愛を注いできた。

 

 合同練習の場には必ず足を運ぶ。アドバイスをおくる。そして今回、「我々は未熟なれど、ラグビーの宣伝ポスターや独自の個人作品なら、いくらでも参加、発表できる」と呼びかけ、サポートしてくれる方々も探した。
 美大ラグビーがもう一度熱を帯びるには、自分たちの存在を知ってもらうことだ。仲間を増やし、手をつなぐ。ひとりではできなかったことも、絆ができれば実現できることは、昨年からの活動で知ったはずだ。応援者が現れたら、世界が広がる。今回の美術展からは、氏のそんな思いが伝わる。
 

 

 毎日シフトを組んで、各大学の部員たちが交代で受付を担当する。山田くんのあとの担当、中山典大さんは、多摩美大の工芸学科に学ぶ3年生だ。
 城北埼玉高校時代はハンドボール部。大学入学後は和太鼓に熱中していたが、2年生の終わりに友人に誘われ、楕円球を追い始めた。
「ルールが難しいところがおもしろい。奥が深いですね。男のスポーツ、って感じを好きになっています」

 

 

 そこに行けば、若者のイマジネーションあふれる作品と出会える。若く、ユニークなラグビーマンと語るのも楽しい。しかし開始3日目の途中で、訪れた人たちはまだ「10人ちょっとですかねぇ…。きょうから(近くの東京)芸大祭が始まって、ラグビー部が模擬店でアイスクリームを売るそうです。そこにポスターをたくさん貼ってくれているので、期待しているのですが」(山田さん)。

 

 愛すべき若者たちを笑顔にしてあげませんか? 週末の試合観戦の前に。仕事や学校の帰りに。そこに漂うラグビーマインドを感じてください。

 

 

多摩美術大学ラグビー部、中山典大さんの作品は『鉄屑ツリーハウス』。

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