国内 2012.09.01

反骨のエンターテイナー SBW、トップリーグへ気合十分

反骨のエンターテイナー SBW、トップリーグへ気合十分


sbw smile


自身が表紙になった『ラグビーマガジン』誌を手にニコニコ顔のソニー=ビル・ウィリアムズ
(撮影:松本かおり)


 



 10年目のトップリーグが8月31日、開幕した。
 9月1日には残り6試合がおこなわれる。注目のパナソニック、ソニー=ビル・ウィリアムズは来日して間もないため初戦への出場は見送られたが、首脳陣の判断はSBW本人の考えとも一致。同選手の日本デビューは、第2節のNTTコム戦が濃厚となった(9月9日/札幌)。



▼上昇し続けるパフォーマンス。



 8月30日のメンバー発表当日、SBWは初めて本格的に参加したワイルドナイツでの練習後、トップリーグ参戦への思いを新たに口にした。
「新しいチームに加わるということは、新しい戦術、戦略の理解も必要だし、仲間の名前もおぼえたい。言葉の壁もある。ただ、それらのことは1、2週間あればすべてクリアになると思っている。ストラクチャー、戦術をしっかり理解するという意味でも、(チームを見つめている)この1週間は貴重な時間。もちろん、プレーヤーとしては(開幕の)試合に出られないことは残念だけど、この期間を経ることが、来週の120%のパフォーマンスにつながる」
 冷静に、自身の立ち位置を見つめる。そして、「今週のベストのチームは、このメンバーが一番いいということ」と続けた。
 30日の練習ではアタック・ディフェンスに加わったり、後方から攻防を眺めたり、ワイルドナイツ内部の情報収集に時間を費やしたSBW。チームメイトと話したり、同じピッチの空気を吸って、あらためて感じたこともあった。
「このチームにはリーダー的存在が多くいると思った。そのリーダーたちが、監督と同じことを口にすることで、チームがまとまっている」
 事前に見た映像の印象や、実際に見た練習風景。それらを検証した結果、自身のプレースタイルを日本仕様に変えなければ、と思う点もある。
「もっともっと走らなきゃいけないね(笑)。そして、どこからでも攻撃を仕掛ける意識を持っていないと。テンポがはやく、ピッチをワイドに使うイメージが日本ラグビーにはある。チームには高いスキルの選手もいる。自分自身、学びたいとも思っている」
 昨年のワールドカップから1年。王国でもSBWのパフォーマンスはワンランク上がったと高い評価を受けているが、その背景を説明する。
「ゲーム理解力が高まったのが大きいね。以前は途中出場が多かったけど、スーパーラグビーでもオールブラックスでも、コンスタントにスタメンで起用してもらった。そして、コーチングスタッフの指導もいい。それらが並行して行われた結果、パフォーマンスも向上し、スーパーラグビーのベスト15にも選ばれたんだと思う」



▼無理だと言われると力が沸く。



 新しく始まる日本でのキャリアについて、NZのテレビカメラも見守る中で丁寧に答えたSBW。現在地を語るとともに、何故いまここにいるのかを語った。これまで歩んできた道についても口にした。
「(今回のワイルドナイツとの契約は)まったく予期していないところに、突然やって来た話だったんです。まずワイルドナイツのスタッフたちが、わずか1時間の話し合いのために、はるばるNZにまで来てくれた。それほど必要としてくれているのか、と。まず、その熱に心を動かされた。そしてその後、契約やチームの話をして魅力を感じました。日本の人々の相手を敬う態度が、私たちポリネシアンの文化に似ていたんです」
 他人の声より、自分の意志を大切に生きてきたSBW。オールブラックスのミッドフィールドに定着し、スーパーラグビーを制したタイミングで、日本でのプレーを選び、その後はラグビー・リーグ(13人制)にステージを移す。絶頂期のまま生きる世界を変えるのは、より大きくなるチャンスでもあるが、リスクも抱えるのではないかと問うと、柔らかな笑みを浮かべて答えた。
「これまでも私は、すべてのことを自分の力でクリアにしてきたんだ」
 ラグビー・リーグでスター選手として活躍していたのにユニオンに転向。フランスのリーグにて高サラリーでプレーし、さらに巨額の契約オファーを受けたけれど黒衣への夢を追った。
「NZに戻ってプレーすると言ったら、周りは無理だと言った。ボクシングの道を望んだら、ヘビー級でやれるはずがないと皆が声を揃えた。振り返って見れば、リスクだらけの人生を歩んできたんだ。でも、周囲から無理だ無理だと言われるほど、僕の気持ちは燃え上がる」
 自分の生き方について言葉を続けた。
「チームメイトであり、家族が幸せであればいい。大切にしているのは、そのことです。そのために、いろんなことに勝つ。そして、ボクシングにしてもいろんな行動にしても、すべては勝利に貢献するためにやっていること。そんな信念を持って、ネガティブな声には流されないようにしています。目も耳も貸さない。私がやってきたことが正しいのは、過去3年の結果が証明してくれているはず」
 賛否の分かれるプロボクサーとしての活動。しかしSBWはボクシングを「自身を向上させる重要なファクター」と位置づけ、そのトレーニングが、ラグビーのパフォーマンスを向上させることを体感してきた。
「17歳からプロとして活動し、すべては準備が大切だと考えています。技術、戦術を深く理解し、激しい練習を積み、自分を追い込む。それができれば、試合では、自然と身体が動くことを知っています」
 プロフェッショナルの矜持がスーパースターを支えている。



▼人をシアワセにする男。



 スーパーラグビーのファイナル。チーフスがシャークスを37−6と圧倒して初優勝を決めたゲームで、SBWは最高の輝きを見せた。後半36分、自身がトライを決めた直後、背番号12はサポーターが待つゴール裏のスタンドに身を投げ出した。そのシーンのことを、愉快そうに語る。
「(本拠地)ハミルトンの人たちは、私をあたたかく迎え入れ、サポートしてくれた。感謝の気持ち。その思いが行動に出たんです。
 実は決勝前夜、興奮してなかなか寝付けなかった。いろんなことを考えているうちに時間が過ぎて…トライを決めたら、ファンの横に座って試合を観たいな(笑)って思いが、ふと頭に浮かんだんです。それがあったから、あのとき勝手に身体が動いた」



 SBWの住むNZの部屋には、家族との写真が飾ってある。テレビの前にポツンと。
「部屋にある唯一の写真なんだ。母と姉、兄弟と写したものだけど、家族の背後にはむき出しの壁があるだけ。僕らは貧しい環境に育った。
 自分は勉強ができる方じゃなかった。でもスポーツでなら、道を切り開いていけると思った。将来プロスポーツ選手として活躍し、母に家を買ってあげたいと思っていた。その思いを忘れないように、いまも飾っているんだ」
 反骨のエンターテイナーは、きっと日本のファンも幸せにしてくれる。



 

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