国内 2023.04.21

4強入りへあと1歩。レギュラーシーズン最終週の東芝ブレイブルーパス東京。

[ 向 風見也 ]
4強入りへあと1歩。レギュラーシーズン最終週の東芝ブレイブルーパス東京。
4月14日のダイナボアーズ戦で攻守に活躍したブレイブルーパスの佐々木剛(C)JRLO


 空撮で映えるだろう。東芝の府中事業所は、JRの北府中駅に隣接。東京ドーム14個分の65.5万平方メートルという敷地面積を誇る。

 巨大な塔や工場施設が立ち並ぶこのエリアには、天然芝も広がる。

 三好町通りを北へ歩くとぶつかる「南門」の右手にあるのが、ラグビー場とクラブハウスだ。ここでは2020年に事業化した、東芝ブレイブルーパス東京が動く。

「21日のホストゲームは、ぜひとも会場にお越しいただき、とにかく、(スタンドを)赤く染めて欲しいと思います。12,000人、15,000人と、たくさんの方に来ていただきたいです。我々は、世界有数のユニークなラグビークラブを標榜し、いろんな試みをしています」

 運営会社の荒岡義和社長が語気を強めたのは、4月17日。グラウンド近くのホールで、定例会見を開いていた。「21日のホストゲーム」とは、レギュラーシーズンの最終節を指す。

東芝ブレイブルーパス東京の荒岡義和社長(写真提供:東芝ブレイブルーパス東京)

 国内リーグワン1部へ加わり2季目のいま、広告的なアプローチで「チームスピリット」をまとめ、「猛勇狼士」「接点無双」というフレーズを共有する。

 各会場では、選手デザインの関連グッズを展開。興行権のあるホストゲームでは、試合中の選手の声を集音マイクで拡散した。

 ファンクラブ会員には当日抽選の末、試合後の選手に見送られて帰る「ブレイバーファミリーロード」へ参加してもらう。

 多面的に仕掛け、ホストゲームの1試合平均入場者数を前年度比で約1.5倍とした。無料招待を1割前後に止めながらの実績だ。

 強化面でも進歩する。前年度は、旧トップリーグ時代を含め6季ぶりの4強入り。現在5位の今季も、21日夜の最終節に2年連続での大台達成がかかる。

 上位4傑は優勝を争うプレーオフへも進めるとあり、重要な80分となる。場所は東京・秩父宮ラグビー場。荒岡はさらに熱を込める。

「強くて、人気のあるチームを(目指す)。その意味では、是が非でもこのゲームでプレーオフ行きを勝ち取って、優勝へあきらめずに突き進んでいきたいです。皆さんのご支援、よろしくお願いします! また、観客がたくさん来場するような記事をバンバン発信していただけたらなと思っております!」

 さかのぼって14日夜の第15節も、秩父宮でのホストゲームだった。対峙したのは、三菱重工相模原ダイナボアーズだ。

 第4節にあった同会場での同カードを、ブレイブルーパスは19-23で落としていた。しかし今度は、要所をおさえ続けて快勝した。52-19。

 殊勲者のひとりは佐々木剛だ。

 オープンサイドFLで先発の26歳。大東大の元主将で、身長180センチ、体重101キロと小柄も速さ、ステップワーク、防御力が冴える。2020年に入部のブレイブルーパスでは、4年先輩でFLの藤田大貴に地上戦での動きを学んできた。

 この日もわずか3点リードで迎えた前半30分頃、自陣中盤でのラックでジャッカルを決める。

「(周りと)コネクションを持ってディフェンスできていたので」

 ピンチを防ぎ、約5分後の追加点に喜んだ。

 放ったタックルの数は2桁を記録した。

 件のジャッカルを決める前の前半27分頃、31-7と差を広げつつあった後半49分頃には、自陣の深い位置で決めた。

 特に後者は、その場、その場の接点の様子へ注意を払いながら、最後は向こうの走者が迫るエリアを先回りして相手を仕留めたものだ。

 本人は、手応えを感じつつ高みを見据える。

「下(半身)に入って、相手を倒し切る。そうすれば味方が(真上を乗り)越えたり、ボールにプレッシャーをかけてくれたりすると思っていました。いまでも悪くはないですが、もっと、圧倒するにはコンタクトのスピード(を速める)というか、もうひとつ先(さらに相手側)で仕掛けたいです」

 攻めてもビッグプレーを披露する。

 やや膠着状態にあったラスト12分。自陣22メートル線付近右でこぼれ球を拾うや、快走。敵陣ゴール前で、SHのジャック・ストラトンにラストパスを送る。45-19と勝負を決定づけた。

 同じポジションには、元ニュージーランド代表で現在故障中のマット・トッドがいる。隣のNO8を務めるのは、現日本代表のリーチ マイケルだ。ワールドクラスとの競争に、佐々木は刺激を受けてきた。

「声をかけてくれる。練習のレビューももらえる。結構、厳しめな、『ミスしてんじゃねーよ』といった、あえての鞭、みたいな言葉もある。慢心できないというか、まだまだだな…と気づかせてもらえる。一緒にやっていて、楽しいです」

 この佐々木と切磋琢磨するひとりには、共同主将の徳永祥尭もいる。

 2019年のワールドカップなどで日本代表だった31歳は、25歳の伊藤鐘平を含めたFL、NO8の争いについて話す。

徳永祥尭(写真提供:東芝ブレイブルーパス東京)

「自分のほうが経験はありますし、教えることもあります。ただ、彼らから学ぶこともあります。毎週、毎週、僕もぎりぎりの状態。メンバーに入れるかわからない。チーム内の競争が活発なので、練習を通し、レベルアップできている実感があります。チームのバックロー(FW第3列)全体で戦えている。佐々木にも、鐘平にも、彼らに持ち味がある。いいところは彼らから盗み、足りない部分は皆でアフター(居残りでの)練習をしています。いい若手が育っているのは自分にとって——(立場が危ぶまれるという)ネガティブな部分もありますけど——ポジティブなことです。それを楽しみながら、これからも長く東芝でやっていきたいです」

 徳永が語った場所は、荒岡らが登壇した17日の記者会見だ。トッド・ブラックアダー ヘッドコーチ、SHで共同主将の小川高廣とともに、次戦を展望した。

 最終節の相手は埼玉パナソニックワイルドナイツだ。各国代表が堅守を全うし、国内タイトルを2連覇してきたディフェンディングチャンピオンである。

 突進力と展開力をシンクロさせたいブレイブルーパスはまず、攻撃中のブレイクダウン(接点)で勢いをつけたい。小川は言う。

「ブレイクダウン。それができないと、自分たちのラグビーは始まらない。ワイルドナイツさんもブレイクダウンが強いチームなので、やり合いになる。そこで勝てれば、自分たちのリズムができる」

小川高廣(写真提供:東芝ブレイブルーパス東京)

 その接点で推進力を作るのはFW陣。脳しんとうからの復帰でその一角をなす徳永は、さらに補足する。

「そこに、付け加えるとすれば、ディシプリン(反則)です。負ける試合、接戦をしてしまう試合では、そこで自分たちの首を絞めてしまっている。気を付けたいです」

 ちなみにワイルドナイツは前節、本拠地の埼玉・熊谷ラグビー場で静岡ブルーレヴズに25-44で敗戦。陣容を大きく入れ替えたFWがスクラムで苦しみ、2018年以来となるリーグ戦黒星(不戦敗を除く)を喫した。

 一般論として、勝ち続けたチームが黒星を喫するとその翌週には気を引き締る。

 その傾向について、ブレイブルーパスの元監督である薫田真広ゼネラルマネージャーも「王者のプライドもあるでしょうし…」と認める。

「ハードルが上がった。逆に、おもしろくもあります。猛勇狼士を体現する、完璧な状況。恐れずに言えば、バチバチのゲームをしたいです。それが東芝。観に来ていただいた方に、本当のラグビーを楽しんでいただけるのでは、という印象です」

薫田真広GM(写真提供:東芝ブレイブルーパス東京)

 今度の現実に荒岡は素直に「もともとは『ワイルドナイツの連勝を止めるのは我々だ!』と言い合っていたんです。ブルーレヴズさんに先にやられたのも、悔しくて」と見解を述べるが、現場は異なる地平で話す。徳永はこうだ。

「ワイルドナイツが連敗した記憶はない。僕たちがそれをできるようにしたいです」

 本当にプレーオフへ行けるかどうかは、他会場の結果次第となる。

 まず、欲しい権利を勝ち取るための条件を整えたい。

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