国内 2023.04.20

ワイルドナイツの坂手主将が、無敗ストップに思ったこととは。

[ 向 風見也 ]
ワイルドナイツの坂手主将が、無敗ストップに思ったこととは。
レギュラーシーズン最終節、そしてプレーオフを見据えるワイルドナイツ主将の坂手淳史(撮影:向 風見也)


 ついに終わりが訪れた。

 4月15日、埼玉パナソニックワイルドナイツは国内リーグワン1部の第15節で、静岡ブルーレヴズに25-44と大敗。相手に今季5勝目を献上したうえ、自分たちは初黒星を喫した。

 何より、昨季の不戦敗2試合を除いたリーグ戦およびプレーオフでの無敗記録が47で止まったのだ。

 もっとも、当日、先発した坂手淳史主将は、その現実を相対化している。

 試合直後、本拠地の熊谷ラグビー場で円陣を組む。

「(負けたのが)きょうで、よかった」

 上位4強によるプレーオフ進出を第13節で決めており、ちょうど人員を入れ替えながらゲームに臨んでいた。

 今度の黒星から、足元を見つめ直すきっかけが得られたと話す。

「負けていいというわけではないですし、熊谷でたくさんのお客さんに来てもらっているなかで負けるのは本意ではなかったです。ただ、ここから何を学んで、どう活かし、次に進んでいくか、決まっているプレーオフに向けてどういう戦いをするか(を考える)いい時間になりました」

 ゲームを振り返れば、スクラムで苦しんだ。FWが組み合う攻防の起点だ。

 試合中、自慢の防御網を崩されるシーンもあったが、スクラムに泣いたことがその遠因になったと坂手は指摘する。押されたスクラムをどう修正するかで頭がいっぱいになり、相手の攻撃を止めるのに集中しきれないシーンがあったかもしれないと言うのだ。

 では、そのスクラムで何があったのか。見た目上は、組んだ瞬間に圧がかかり、塊で押し切られることもあったような。

 ワイルドナイツの最前列には今回、日本代表で左PRの稲垣啓太がいなかった。果たして、最前列のつながりが途切れているようにも映った。

 何より中核のLOでは、南アフリカ代表のルード・デヤハーが抜けていた。塊の重量感は、いつも通りとはいかなかったのだろうか。

 むろん、出場選手はその日のベストメンバーであるのが原則だ。先頭中央のHOへ入る坂手も、人員構成を苦戦の言い訳にはしない。

 ただし当日の感触、映像での振り返りを踏まえ、かような所感を述べる。

「(前列3人のつながりが)割られているのもそうですが、(スクラムは)3対3で組むわけじゃない。8人(FW全員)で組む。向こうの8人は機能していて、こちらの8人が機能していなかった。その差はあったかな、と思います」

 ブルーレヴズは、スクラムにこだわるチームのひとつ。2列目、3列目の選手の一体感、低さ、地面に刺すスパイクのポイントの本数と、各項目で一貫性を保つ。今回は雨天下とあり、足元を滑らせることのあったワイルドナイツを凌駕できた。

 現在、名嘉翔伍アシスタントコーチが教えるこのフォームは、現日本代表の長谷川慎アシスタントコーチが源流を作ったことで知られる。

 これと同種の形は、日本代表が世界と戦う際にも用いられる。

 ワイルドナイツ戦におけるブルーレヴズの好プッシュは、日本代表にとってのベストシナリオと重なるとも取れる。

「その話、しました。慎さんと」

 坂手がこううなずいたのは、試合から4日が経った19日だ。

 熊谷市内の練習場でのトレーニングを前に、長谷川と面談していた。おもな内容は、3月下旬以降の日本代表候補によるミーティングキャンプでのスクラムセッションのレビューだった。

 ブルーレヴズが自分たちを苦しめ、自分たちが世界を苦しめるためのスクラムの形について、坂手は「100対70」と形容した。自分たちの力を「100」パーセント出力し、かつライバルのパワーを「70」パーセントしか出せないよう、相手の体勢を崩す。
 
 今度の取材機会では、自軍の現在地についても深掘りした。

 まずは黒星を喫してから1日のオフを挟み、17日に集合したと述懐。クラブハウスへ顔を出すや、SOの松田力也やNO8の福井翔大ら後輩から「あ、よかった! 来た!」と笑って迎えられたという。

 落ち込んで練習を欠席する可能性でもあったかのように、「僕をいじってきたんです」。坂手は苦笑する。

 悲観していないのは、悪いことではない。

 リーダー間および全体のミーティングでは「オーバーに言いすぎてもだめ。ただ、負けのイメージがなさ過ぎてもだめ」と、絶妙な塩梅を意識して仲間へ訴えた。

「この1週間で何をするか。それが、欲しいものに手が届くか届かないかにかかってくる」

 21日には東京・秩父宮ラグビー場で、レギュラーシーズン最終節に挑む。

 対する東芝ブレイブルーパス東京は12チーム中5位。自力でのプレーオフ行きは叶わないが、引き分け以上なら他会場の結果次第で願いが叶う。

 ワイルドナイツにとっては、引き締めてかかるべき一戦か。

 29歳でナショナルチームでも船頭役の坂手は、こう、にらむのである。

「(ブレイブルーパスが)死に物狂いで来るのはわかっている。相手がどういう状況に置かれているかも、金曜の夜に何が起こるかも、ここ(ワイルドナイツ)にいる全員が理解している。マインドセットは、作れています」

 最高の締めくくりを誓う。

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