ブレイブルーパスは「変な試合」制して4強争い踏みとどまる。殊勲者の声は。
観客席の表面には雨粒が白く光る。入口に桜色の照明が灯る東京・秩父宮ラグビー場は、あいにくの天気に見舞われた。
3月24日の国内リーグワン1部・第13節では、ビジターにあたる東芝ブレイブルーパス東京がリコーブラックラムズ東京に12-10で辛勝。ラスト10分の時点でリードを許していた。
60分間プレーのLO、ワーナー・ディアンズは首を傾げた。
「難しい、変な試合だった気がするっす。両チームともやりたいようにできなかった。ただ最後、勝ち切ったのは、僕たちの自信になっている」
戦前の時点で12チーム中5位。4強によるプレーオフ行きへ正念場を迎えていた。この日にはまったのは、6位のブラックラムズによる蟻地獄だった。
チャンスの場面、陣地を獲りあうシーンで何度も落球した。向こうの好タックル、好カバーに手こずった。
18分頃には中盤でカウンターアタックを仕掛けるも、一枚岩となった防御ラインの餌食となった。ターンオーバー。
かくして前半は、スコアレスドローで折り返した。
先制されたのは後半5分。ペナルティゴールを与えていた。
きっかけはノックオンだ。ブラックラムズのゲーム主将でFBを張るマット・マッガーンに高い弾道のキックを蹴り込まれ、自陣22メートルエリアで捕球役が目測を誤った。直後のスクラムを起点に危機を迎え、間もなく反則を犯した。
続く9分にはスクラムそのものを押され、笛の音を聞いた。まもなく自陣22メートル線左のラインアウトから、モールで前進を許した。塊の内側こそLOのジェイコブ・ピアスが抑えていたものの、外側の進路を突かれた。
10点差を追う展開となり、動いたのがトッド・ブラックアダー ヘッドコーチだ。
11分、最前列のHOと右PRを交替。すると、それまで旗色の悪かったスクラムで形成逆転した。
続く15分頃、敵陣中盤右での1本で右側からプッシュ。ペナルティキックをもぎ取る。敵陣ゴール前まで進んだら、今度はパスをさばくSHも代える。攻めに変化をつける。
投じられたジャック・ストラトンは、緩急自在のさばきでディアンズ、NO8のリーチ マイケルといった突進役を快適に走らせる。
最後は途中から出たHOの原田衛が、相手防御をステップでかわしてフィニッシュ。直後のコンバージョン成功で7-10と迫った。
指揮官は言う。
「特にこういう拮抗した試合では、交代で投入された選手の役割が大切になります」
ここからブレイブルーパスは、攻める機会を増やす。
28分頃だ。ブラックラムズのFBのマッガーンが「(落球が多い展開で)ボールをあまり持ちたくない」と、左奥へ蹴り込む。
するとその弾道を、FBの松永拓朗が首尾よく処理する。
迫る防御をかわす。
その先の空間を、ラン、パスで切り刻む。
一気に敵陣22メートル線近くへ進む。
ブレイブルーパスはここから左右へ球を揺さぶり、30分、WTBのジョネ・ナイカブラがトライを決めた。直後のコンバージョン成功で12-10。
その約2分前、ブラックラムズはイエローカードで一時退場者を出していた。その分、ブレイブルーパスに付け入る隙を与えていた。
最後の最後に人数を揃え、何度か再逆転のチャンスをつかんだが、ペナルティゴール失敗などで逸した。
果たしてブレイブルーパスは、4強争いに残った。ブラックアダーは言う。
「本当にラッキーだった。これまで見てきたなかで最高のラグビーだったとは言えませんが…。瞬間、瞬間でタフに戦い続けられた点では誇りに思います」
SHの小川高廣共同主将は、「ディフェンスではディシプリンを守って(反則をせず)、スペーシングして(間隔を保って)、前に出られれば怖くはない」。タフな守りも勝因だった。
ブラックラムズがグラウンドの端側から中央へパスを折り返す際には、その軌道へ圧をかけた。
特にリーチは、NO8の対面であるネイサン・ヒューズに何度もぶち当たった。現役の日本代表が、元イングランド代表戦士を押し戻した。
「試合前から、意識していた。彼はボールを前に出せる選手だし、同じ8番だし、自分の意地、出したかったです」
右のまぶたに腫れがあった。泥まみれの白星を象徴した。