2度の一時退場処分にも焦らず。ワイルドナイツ、プレーオフ進出までのがまん。
よく辛抱した。
リーグワン1部で2連覇を狙う埼玉パナソニックワイルドナイツは、3月25日、敵地の豊田スタジアムでトヨタヴェルブリッツに激突した。
イエローカードによる10分間の一時退場者を2度も出しながら、19-10で開幕13連勝を決めた。
最初に14人で戦ったのは、前半ロスタイム43分以降だ。
ハーフタイム間際にはモールで初失点も、後半3分頃、自陣ゴール前での危機をしのいだ。FLのラクラン・ボーシェーのジャッカルが決まった。抜けたLOのルード・デヤハーが戻るまで、13-7とリードを保った。
デヤハーが戻って間もない後半11分には、右PRのヴァル アサエリ愛が外へ出た。僅差で迎えた試合中盤だったとあり、雨天下に集った観客の興味は増しただろう。
しかし10分後も、スコア上の優劣は変わらなかった。
ヴェルブリッツは、攻撃の起点たるラインアウトで再三のエラーを犯していた。
13分には敵陣22メートルエリア右で首尾よく捕球も、その後の攻めが封じられた。
好突進を重ねていたFLで共同主将の姫野和樹が、対する左PRの稲垣啓太に仕留められる。
刺さってはすぐに立ち上がる堅陣を前に、最後はSOのウィリー・ルルーが一か八かのキックパスを選ばざるを得なくなる。球はタッチラインの外へ出た。
かたやワイルドナイツは20分、敵陣での攻撃機会からペナルティゴールを引き出した。16-7。
「落ち着かせて、自分たちのプレーをする(ことに課題があった)。少し、焦ってしまっていて、自分たちにプレッシャーをかけてしまっていた」
こう悔やむのは姫野。一方、勝った主将でHOの坂手淳史は、自慢の防御を心の支えにできたと話す。
「焦り、脅威(に感じること)はなかったです。ディフェンスでのブレイクダウン(接点)、タックルには手応えを感じていた。そこで前に出られなかったら、14人でも当分は戦えるなとは思いました」
15対15と数的同数になった終盤は、ワイルドナイツがスコアに表れぬ底力で寄り切りにかかる。27分頃だ。自陣22メートルエリア右のスクラムでぐい、と相手にのしかかる。向こうの1人の足を滑らせ、わざと崩す反則を誘った。陣地を挽回した。
ここで最前列に入った稲垣のスクラム解説には、クラブの有するがまん強さがにじんだ。
「一回、一回、大きなプレッシャー(をかけるの)ではなく、80分間、ちゃんと(安定的に)プレッシャーをかけ続けることで、最終的な局面で大きなプレッシャーを与えることができる」
果たしてレギュラーシーズンを3試合も残し、4強以上を確定させた。つまりプレーオフ進出を決めたのだが、その事実については現主将の坂手も、元主将でHOの堀江翔太も「知らなかった」。視線は、別なところに向けられていた。
ヴァルが抜けた直後に投じられた堀江は、このように言う。
「自分のやることに集中しようという話はしていて。その先の結果をどうのこうのと考えるのではなく、その場、その場のやることに集中する、ということじゃないですか」
かたやヴェブルリッツは、この節の結果を受けプレーオフ行きの可能性が断たれた。
ワイルドナイツと同じように、前回のワールドカップ日本大会を制した南アフリカ代表のメンバーを2人も揃えた艦隊である。序盤は黒星が先行も、過去3戦は2勝1敗と盛り返していた。
元ニュージーランド代表ヘッドコーチのスティーブ・ハンセンが、本来のお目付け役から指揮官の補佐役に回って練習を仕切っていたためだ。
強度のメリハリをつけたセッションで、週ごとに簡潔な戦法をインストール。選手の迷いを減らした。
度重なる好突進で魅した姫野は、こう前を向く。
「チームがコネクトして、チームとしてラグビーができている。ただ、そのなかでもう少しディテールを詰めるなど、小さなところの積み重ねはもっと意識しないといけないかなと感じています」
今度のプロセスを経て、マネジメント、プランニングの大切さをクラブ内外に再認識させたわけだ。
しかし、信じた道を迷わず歩くようになってからの時間の長さでは、王者に分があったか。
ワイルドナイツが14人で戦った約20分間のスコアは、3-7とヴェルブリッツが僅差でリード。15人で戦った約60分の総計は、堅守で少機をつかんだワイルドナイツが16-3と上回った。