国内 2023.02.16

府中ダービーで惜敗も持ち味示す。トム・テイラー、ブレイブルーパスでの目標は?

[ 向 風見也 ]
府中ダービーで惜敗も持ち味示す。トム・テイラー、ブレイブルーパスでの目標は?
府中ダービーで6本のゴールキックをすべて決めたブレイブルーパスのトム・テイラー(撮影:松岡健三郎)


 シャワーと着替えを済ませてもなお、トム・テイラーは「まだ、ちょっとがっかりしている」ようだった。

 2月5日、東京・秩父宮ラグビー場で国内リーグワン1部の第7節に臨んだ。東芝ブレイブルーパス東京の10番をつけ、先発フル出場していた。東京サントリーサンゴリアスと4トライずつ取り合いながら、34-40で負けた。

 今度の80分は両軍の本拠地にちなみ、「府中ダービー」と銘打たれていた。このクラシコを、テイラーは「アップダウンがある試合でした」と総括した。

「最初の約20分間はサンゴリアスが勢いを得ましたが、私たちはそれを乗り切り、スコアをしたことでイーブンなところにまで持っていけた。ただ、作り上げたチャンスのすべてはものにできなかった。力不足です」

 ビジターのサンゴリアスは数年来、常に優勝を争ってきた。旧トップリーグ時代から、中止となったシーズンを除き5季連続で2位以上。この日もテイラーが認める通り、前半22分までに10点リードを奪う。

 しかしホストのブレイブルーパスは、ここから「イーブン」に近い形に迫った。ラインの深さを変えながら左右にボールを大きく動かし、サンゴリアスを苦しめたからだ。

 10-20と10点差を追う前半35分、敵陣で相手のキックを捕るやアクセルを踏む。

 同中盤右に接点を作る。球が出る。FWのユニットを経由し、左斜め後ろのテイラーに渡る。テイラーは、自身よりさらに左後方のマット・トッドへロングパスを放る。トッドが勢いよく防御を跳ね返すと、ブレイブルーパスは再び右へと攻め、再び左へ振る。

 ここで変調を起こす。

 それまでの深い陣形ではなく、ほぼ横一列の浅い攻撃ラインを作っていた。接点の近い位置から順にセタ・タマニバル、トッドとオフロードパスの得意な選手が並び、タックラーにぶつかりながら球をつなぐ。

 左端にいたCTBのニコラス・マクカランがフリーで走り、その右脇をサポートしていたWTBの濱田将暉がラックを作る。ゴールラインの手前まで迫る。

 まもなくテイラーが再び球をもらい、複数の防御を引き付ける。右中間のタマニバルへつなぐ。

 タマニバルのラストパスを得たのは、韋駄天のジョネ・ナイカブラだった。タッチライン際でこの日2度目のトライを決め、直後のコンバージョン成功で17-20と迫った。

 大胆なシステムで個々の推進力を活かすのが、ブレイブルーパスの真骨頂である。

 テイラーはこうだ。

「自分の仕事は、素晴らしい突進役に球を供給すること。速度のあるアタックを目指しています。(接点に)近い選手、ワイドに立つ選手といろんなオプションがあるなか、相手のディフェンスがどうなっているかも踏まえて(誰にパスを出すのか)判断しています。周りの選手とのコミュニケーションを通し、どのスペースが空いているかも考慮します」

 作戦を立てる森田佳寿コーチングコーディネーターは、「フィールド上の、相手が脅威を感じるところに人を配置する。そのなかで一番、相手の薄いところ、嫌なところへボールを動かし続ける」と補足する。

 部内でいくつかの攻めの布陣、原理原則を共有したうえで、その時々の相手への対策を約2週間前から考え始める。その内容は、当該の試合がある週の頭にテイラーら攻撃のリーダーへ伝える。必要に応じて微修正を施し、最終版のプランを全選手へ落とし込む。

 サンゴリアス戦で球を左右に振ったのも、自軍の型と「彼ら(サンゴリアス)のディフェンスシステムだからこそ起こるウイークポイント」を突き合わせた結果だという。

 「またいつか(上位4強によるプレーオフで)試合をするかもしれない」からと詳細は明かさなかったが、仕組み上の「アンバランスさ」に付け入る隙があったようだ。

 この日は後半、サンゴリアスに反則がかさんだこともあり、ブレイブルーパスは2度の勝ち越しに成功した。陣地の取り合いでもテイラーが好キックを重ね、相手の死角を突いた。

 しかし、34-37と勝ち越されていたラスト10分間、チャンスを得ながらサンゴリアスの壁を割れなかった。3トライを挙げたWTBの尾崎晟也には、ジャッカル、濱田のランコースを封じる動きでも苦しめられた。

 振り返れば前半終了間際にも、敵陣ゴール前で分厚い壁を敷かれていた。

 その局面では、対するSHで主将の齋藤直人が「前半を取られて終えるか、守って終えるかで後半は入りの流れは確実に違う」と、自身より24センチ、40キロも大きなブレイブルーパスのNO8、リーチ マイケルにタックルに入った。

 ここから他の14人も機敏に動き、穴をふさいだことで、ブレイブルーパスはパスミスに泣いた。

 そう。テイラーも「作り上げたチャンスのすべてはものにできなかった」と総括した。潔かった。

「我々はスコアこそしましたが、サンゴリアスのディフェンスは最後の10分間だけではなくずっと強い状態でした。しっかり守るチームで、知性を持った素晴らしい選手がいた」

 身長186センチ、体重92キロの33歳。元ニュージーランド代表で、判断力と技術の一貫性には定評がある。24歳でFBの松永拓朗にも、こう尊敬される。

「ひとつひとつのキック、ムラのなさ…。お手本のような選手だと思います」

 2021年からプレーするこのクラブで、いま、どんな目標を掲げているのか。

「まず、勝ちたいです」と切り出した。

「いま自分の年齢だと毎試合出られるわけではないかもしれないが、優勝したい。しっかりとパフォーマンスを発揮し、プレーオフへ行けるトップ4入りを果たし、優勝を狙えるところに自分たちを置きたいです」

 これから突入するシーズン中盤戦以降は、決定力と規律を見直したいとも話す。「このチームは、勝てる」と力を込め、グラウンドを後にした。

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