国内 2023.01.01

【花園】尾道がシード校撃破! 敗れた常翔学園も貴重な経験積む。

[ 向 風見也 ]
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【花園】尾道がシード校撃破! 敗れた常翔学園も貴重な経験積む。
尾道は伝統の前へ出るディフェンスも見せた。(撮影/松本かおり)



 東大阪市花園ラグビー場の第3グラウンドに、田中春助は甲高い声を響かせた。

「みんなでディフェンスしよう! 勝手なことはしないよ!」

 広島・尾道高ラグビー部を率い、全国高校大会の2回戦に挑んでいた。

 2022年最後の試合となる12月30日のこの一戦では、シード校としてこの試合から登場の大阪・常翔学園高にぶつかった。

 指揮官がベンチから叫んだのは、前半17分頃のことだ。過去5回優勝の強豪に、この日3本目のトライを獲られていた。

 ちょうど防御ラインの横幅が狭まり、相手に攻めるスペースを与えていたように映ったのだろうか。

 指揮官は、それまで繰り返し練習してきた組織防御の肝を改めて伝えた。

「それ(基本の徹底)でいい思いをしてきたから」

 チームは直後の攻防で12—15と迫った。その後も、人と人との間をほぼ等間隔に整備した防御ラインで相手のミスを誘った。勢いをつけられスコアを許すこともあったが、わずかなチャンスを活かして最後まで接戦を演じた。

 後半24分には、得意のモールからのトライなどでこのゲームで初めてのリードを奪った。31—25。約4分後には31—30と一点差に迫られたが、最後の反撃はSOの青田宗久主将のジャッカルで止めた。ノーサイドの笛を聞き、喜んだ。

「試合が始まる前から、点差をつけられることはあっても自分たちの方が実力は上だと自信を持っていた。最後に勝てればいいと、皆で声を掛け合っていました」

 主将がこう話したのは、大会前の練習試合で優勝候補の兵庫・報徳学園高を制していたからだ。シード校撃破を確信していた。

 左PRで好ラン連発の檜山蒼介も、こう続けた。

「(常翔学園高は)簡単な相手ではないとは思っていましたが、(失点時も)自分たちのラグビーをやったら絶対に勝てると(気持ちを)切り替えられた」

 敗れた常翔学園高は、6度あったコンバージョンゴールをすべて外した。1本でも決めていれば結果は違ったが、当事者が本当に悔やむのはそこではない。 

 SHの田中景翔主将はこうだ。

「反則から崩れ始めて…。最後まであきらめていなかったのですが、尾道さんが、強かった」

 敗者は大変なシーズンを過ごしてきた。

 9月に部員の不祥事が発覚し、野上友一監督が辞任。当時を振り返るよう問われ、田中は言葉を選んだ。

「色々と世間から言われることがあっても、俺らは前を向いて日本一を目指していくだけ。頑張ろう。(仲間には)そう話しました。主将として部員をまとめる機会はめったにない。次のステージでもこの経験を活かし、(将来のチームメイトを)引っ張りたいです」

 勝者も、敗者も、自分にしかできない経験をした。


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