「早明戦への準備以上のことをやって次戦を戦う」 吉村紘[早大4年]
伝統の一戦でキャプテンを務めた。
この先の人生を支える、一生の誇りとなるだろう。
12月4日、9年ぶりに国立競技場でおこなわれた早明戦で、吉村紘は早大の12番としてプレーした。
主将の相良昌彦がケガで欠場したため、ゲームキャプテンを務めた。
21-35で敗れた試合を振り返り、立ち上がりを悔やむ。
先に3トライを許して大きくリードされる展開となった。
「自分たちの甘さが出た」
立ち上がりに許した先制トライは、ラインアウトからだった。
ピッチ中央でラックを作られた後、そのサイドを明大SH萩原周に走られた。ディフェンスが乱れて前進され、仕留められた(トライはCTB齊藤誉哉)。
「フォールドのスピードが足りなかった」と技術的な視点で話す。
ラックを越えて逆サイドに人が移動する動きだ。
設計された攻撃を仕掛ける相手へのリアクションが遅れたことで不利な状況となった。
ゲームキャプテンとしては、試合前の空気が気になった。アップからチームがふらついていたかもしれない。
「国立競技場です。人間なので、チームとしても、独特の雰囲気の中でいつもと違ったかもしれません」
高揚感や緊張感だけが原因ではない。今後のトーナメントを勝ち抜くためには、修正していくべき点でもある。
「(今季は)帝京にも慶應にも先制されています」
試合の入りの10分には、どんな準備をしてきたのか、あるいは心の状態が如実に出る。
ただ、敗戦の中にも良い手応えはあった。FWのハードワークで攻撃を継続できる感覚は早い時間帯から得ていた。
「スコアできるマインドはありました。トライを取ったWTBの槇(瑛人)、松下(怜央)をはじめ、自信になるシーンはいくつかあったはずです。それを次につないでいきたい」
試合後に大田尾竜彦監督が挙げた課題、22メートルライン内に入ってからのスコア力について、「(トライを)取り切るのも大事。そこにい続けるのも大事」と話す。
「ブレイクダウンでプレッシャーを受けてターンオーバーをされないことが重要」
相手の反則を誘う激しさと我慢強さ。そして、精度の高いプレーで勝負を挑むことの大切さを再確認する。
「ディフェンスも、相手が(ストラクチャーを)決めている3次までは圧力を受けましたが、それ以上のフェーズでは対応できていました。前半に取られた3トライはすべて(ラインアウトからの)設計された攻撃からだったので、後半はキックを外に出さず、ディフェンスからゲームを作りました。そこに早く気づけていたら」
すべてのレビューを未来につなげるつもりだ。
ゲーム主将として過ごした早明戦までの日々を、「いろいろ考えました」と回想する。
「(仲間に)どんな声をかけようとか、この日を迎えるまでは、そんなことを考えました。でも、自分のプレーを80分し続けることがチームのためになると吹っ切れた。うまいことを言うとかより、自分のプレーにフォーカスすることが大事、と」
実際、そんな80分を過ごせた手応えはある。自身のプレーのクオリティを追求した。
高い集中力は、特にキックの精度に表れた。難しい位置からのものもあったけれど、この日蹴った3本のコンバージョンキックをすべて成功させた。
自身も、「キッカーとしてはいい仕事ができたと思う」と言う。
「廣瀬(雄也/相手のキッカーで、東福岡高校の1学年後輩)が全部決めていたので、一本でも外したら追いつけないスコアになる。相手キッカーにプレッシャーをかけられた形でしたが、その状況で決められた。7点差で試合を進められたのはよかった」
国立競技場は相性がいい。2年生時の大学選手権決勝の天理大戦は(28-55と)敗れたものの、4コンバージョンキックの成功率は100パーセントだった。
「(国立競技場は構造上)風もない。そして、(ゴールポストの)ポールがくっきり見えて蹴りやすい」
12月11日には、全国大学選手権の3回戦を戦う。相手は、関東大学リーグ戦3位の東洋大。勢いにのっているチームだ。
「(次戦に向けて)危機感を持ってやっていきます。早明戦への準備以上のことをやっていかないと」と気持ちを引き締める。
秩父宮ラグビー場でもHポールの間に正確なキックを蹴り込み、年明けの決戦には、国立競技場のピッチにふたたび立つ。