守のワイルドナイツ×攻のサンゴリアス、開幕直前に激突。今後の展望は?
昨季の決勝に出たチーム同士で、開幕前最後の練習試合をおこなった。どちらも目指すプレースタイルの遂行力や、起用した選手のパフォーマンスをチェックした。
12月3日、埼玉・熊谷ラグビー場。昨季のリーグワン初年度で王者となった埼玉パナソニックワイルドナイツが、東京サントリーサンゴリアスと40分×3本の変則的なトレーニングマッチを実施した。
最終スコアは26-35。守りのワイルドナイツと攻めのサンゴリアスが、それぞれ手ごたえと課題をつかんだ。
敗れたワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督は、「理想のプレシーズンマッチでした」と穏やかだ。
期待されるのは、トップリーグ最終年度から続く国内3連覇。秋にチームを抜けていた各国代表組がすべて出揃うのは翌日以降の宮崎合宿からだとし、現時点で必要な手順は踏めたと話す。
「タフな試合。出場選手が勇気のあるプレーを随所でしてくれていた。特に(この日数多く出ていた)若い選手にこのスタジアムでの試合経験を与えられたことはよかった」
かたや勝ったサンゴリアスの田中澄憲新監督は、「結果的にはトライを獲って、変則マッチですが勝つこともできた。ひとつ、成長できた。これからの自信にもつながった」と話す。
クラブにとって2017年度のトップリーグ以来となる王座奪還へ、普遍的なスローガンの「アグレッシブ・アタッキング」という原点を見つめ直している。
こちらも複数の代表組を欠きながら、成果を実感できた。
「プレシーズンに積み上げてきたことを(どれだけ遂行できるか)、日本一であるパナソニックさん相手にチャレンジすることをテーマにしました。特にアタックの部分で、です。これから日本代表のメンバーが帰ってきて、本当の意味でチームにならなきゃいけない期間に入る。プレッシャーもかかるし、きょう(まで)とは全く別のシーズンを過ごす。ここから皆でもう一回、サンゴリアスのラグビーを築き上げる作業をしていきたいです」
いつもと違うぞ。挑むサンゴリアスは、ワイルドナイツにそう思わせることに成功したような。
自軍キックオフの弾道へ身長206センチのLO、ハリー・ホッキングスを走り込ませ、ボールを得れば接点でワイルドナイツの反則を誘発。直後のゴール前での攻めではスコアできなかったものの、最初のボール保持からの流れで昨季からの変化を匂わせた。
それは選手の立ち位置である。SHの周りに入るFW陣が、従来よりも攻防の境界線に近く、かつ相手のタックラーの正面からずれた位置へ並んでいるような。その後方から走り込む選手も、勢いよく前に出られた。
前半11分頃に0-7と先制したのは、その形による。
指揮官はチームの本質に沿って「バージョンアップというより、まずは自分たちの大事にしてきたものを取り戻す過程にある」と話すかたわら、SHの大越元気はこうだ。
「スピードで上回り、ボールを下げずにゲインライン(攻防の境界線)を切っていく」
パスコースへ走り込む意識が高まったことで、立ち止まってボールをもらうシーンは自ずと減った。
7-7の同点で迎えた24分頃、サンゴリアスは、敵陣ゴール前で鍛え込んできたモールを起点に右から左へ展開する。
SOの森谷圭介ゲーム主将が、飛び出す防御の裏側へのパスをCTBの尾崎泰雅につなぐ。まもなく7-14とした。
対するワイルドナイツでゲーム主将をしたNO8の福井翔大は、こう感じた。
「(サンゴリアスは昨季までと)違ったと思います、シェイプ(陣形)も。ハーフのライン(SHの周辺)に走ってくる感じでやりづらかったです。ただテンポの速さ、どこからでもアタックを仕掛けてくるというブレーン(考え方)のところはサンゴリアスさんっぽかった」
ワイルドナイツも哲学を貫く。中盤で攻めるさなか、サンゴリアスの防御の圧力が強いと見るやコーナーへのハイパントで仕切り直す。球が飛んだ先で自慢の防御網を敷く。
蹴ったのは松田力也。左ひざの前十字じん帯断裂から約半年ぶりに復帰のSOだ。久々のゲームにあって、適切な判断ができたと語る。
「(自身の感触は)完璧じゃないけど、悪くはないです。流れのなかでトライを取れたところもありますし、この段階ではいいほうだと思います。(ハイパントの選択については)僕たちは、ディフェンスのチームなのでぶれずに(蹴った)。僕がコールを出したら皆が(弾道を追いかけるべく)動いてくれることもきょう、(改めて)わかった」
陣地の取り合いでは、FBに入った野口竜司が魅する。
自陣右で相手のキックを得るや、駆け上がりながら敵陣の深い位置へ蹴り返す。捕球役に鋭い圧をかけ、12-14と迫るまで相手を自陣に封じ込めることができた。
野口は今秋に日本代表入りも、テストマッチでの出番がなかった。
今回は試合勘を取り戻しながらチーム戦術を理解し直すべく、志願を叶えて先発した格好だ。松田とともに、3本あるうちの1本目が終わるまでフィールドに立った。
その1本目が19-21で終わる間際、ワイルドナイツのFLのラクラン・ボーシェーが敵陣中盤で好タックルを重ねる。
その流れでLOのエセイ・ハアンガナがジャッカルでペナルティキックを獲得。まもなく敵陣22メートルエリア右のラインアウトからムーブを決め、WTBで先発の丹治辰碩がフィニッシュ。直後のコンバージョン成功で26-21とリードした。
ワイルドナイツは1本目の途中から接点への圧を強め、サンゴリアスの連続攻撃のリズムを鈍らせていた。
スコアレスに終わった2本目の約40分間で、自陣ゴール前でのピンチをしのぐこと4回。FLのボーシェー、CTBの長田智希のジャッカル、途中出場したLOのリアム・ミッチェルのタックルとワークレートが光った。
ディーンズ監督は、4年目でレギュラー入りを目指す丹治、好チャンスメイクと2トライで魅した先発CTBの長田のパフォーマンスについて好意的に話す。
「時間の投資にはリターンがあると感じます。若手が(目の前の出来事に)どう反応するのかを私たちは見ています。気を付けたいのは、決して皆がいいファーストステップを踏めるとは限らないことです。いろいろな教訓があると思うし、これから国際選手とのプレーで学ぶこともあると思う。ただ常によくなっていこうという姿勢が(今後の)糧になる」
主力組の合流が遅れることには、「それが日本代表をはじめとした国代表の選手を多く輩出するチームの宿命です」とディーンズ監督は言う。
2020年以来の復帰となるダミアン・デアレンデ、新加入したLOのルード・デヤハーといった南アフリカ代表勢、9月の日本代表候補合宿でけがをした右PRのヴァル アサエリ愛、FLのベン・ガンター、日本代表の左PRでコンディション不良を抱えていそうなクレイグ・ミラーについて、こう展望した。
「デヤハーは調整が必要かもしれませんが、デアレンデはもともとワイルドナイツにいた経験もある(ので心配はない)。シーズン中の人の出入りはある。そこで自分たちの持っているものを最大限、活用します。またガンター、アサもけがをしていますが、彼らが復帰すれば話(状況)は変わってくる。ミラーも月曜から合流します。宮崎キャンプで必要なつながりを作りたいです」
もっともサンゴリアスは、ワイルドナイツの好守が光った2本目にもスコア。37分頃、モールを軸にトライを奪った。コンバージョン成功で26-28と勝ち越した。
サンゴリアスはスクラムでも概ね優勢。お互いにチャンスを逃しながら迎えた3本目の終盤にも、敵陣ゴール前のスクラムを押してNO8のトム・サンダースがとどめを刺した。これで26-35。
田中監督は「特にラインアウト、スクラム、モールにはかなりこだわってきた」と話し、ここまでの積み上げを評価。現段階での状態に手ごたえをつかんでいるのもあってか、日本代表組の合流に関してはこう言及した。
「(各選手と)コミュニケーションを取ったり、(状態を)チェックしたりしましたが、かなり疲れていると感じました。また(選手によっては)テストマッチ続きでウェイト(トレーニング)ができていない。まずはそこ(身体の状態)を100パーセントに持っていくことが必要です。(個別に)プランを立てる。プラス、今季はいままでと違うスタイルのラグビーもやっているので、そこにフィットできるかも大事。人によっては、(本格的な合流まで)時間がかかると思います」
守りのワイルドナイツと攻めのサンゴリアスは、今季も優勝争いの軸となるか。ワイルドナイツは17日に熊谷で東芝ブレイブルーパス東京と、サンゴリアスは18日に東京・味の素スタジアムでクボタスピアーズ船橋・東京ベイと今季開幕節をおこなう。