「いま、どこが強いかと、W杯でどこが優勝するか、は関係ない」。マコウとカーターが見る世界情勢
ふたりでいくつもの栄光をつかんだ。
悔しさも味わった。いくつものプレッシャーを跳ね返したこともあれば、押しつぶされた経験もある。
だから、リッチー・マコウとダン・カーターの言葉には重みがある。
ふたりはリポビタンDチャレンジカップ、日本代表×ニュージーランド代表の開催に合わせて来日している。
サクラと黒衣の激突について「ビッグゲームになる」と話すふたりは、2023年開催のワールドカップ(以下、W杯)まで1年を切ったいま、世界のラグビーをどう見ているのか。
現在の勢力図を見て、「南半球、北半球の実力は、差が縮まっているというより、すでに差はなくなっています」と言うのは、148キャップを持ち、111試合で主将を務めたマコウ(FL)だ。
「6チームが優勝を狙える力を持っていると思います。また他の10チームは、優勝はできないかもしれないけれど強豪相手にアップセットを起こせる力があると見ています」
テストマッチで1598得点を記録し、112キャップ。オールブラックスのプレーメーカーとして活躍したカーター(SO)も、マコウに同意する。
「間違いなく、アイルランド、フランスは世界のトップ2に入る。ここ数年、一貫してプレーしている印象があります。ただそれも、優勝が保証されるわけではない。それがW杯です」
カーターは、4回のW杯に出場し、合計16試合に出場した経験を持つ。
「W杯は、普段のテストマッチとはまったく違う。別物で、何が起こるかわからない。そんな中で、来年の大会では強豪国を倒せるチームがいくつもあるとくれば、北半球や南半球といったカテゴリーに関係なく、どのチームが優勝してもおかしくないと思います。かつてない、実力拮抗の大会となるでしょう」
W杯の誕生により、ラグビー界は大きく変わった。
一つひとつのテストマッチの重みは不変も、すべてのチームがピークの状態で集結するのは4年に一度の舞台になった。
「それだけに、いまどこが調子がいいかなどの状況は、1年後におこなわれるW杯でどこが勝つのか、とは関係がありません。大会に至るまでの結果の過程は、W杯とは無関係。全チームがピークにある中での大会。普段とは桁違いのプレッシャーもある」
そう話すマコウは、キャプテンとしてチームをW杯の頂点に導いたときの経験を言葉にする。
「優勝するまでに、プールステージ4戦を戦い抜き、ノックアウトステージに入ると3戦続けてタフな試合で、高いパフォーマンスを出す必要がある。一喜一憂しないことも大事だし、各試合を決勝戦のつもりで戦う集中力もいる。その道程を戦い抜く姿勢を、キャプテンとして体と言葉で伝えてきました。苦しい状況に慌てないチームは強い。ここ、というときに、多くを言うのではなく、シンプルな言葉で大事なことを伝えるようにしてきました」
カーターはプレーメーカーとして、違った視点で優勝するチームに必要なことを話した。
「リッチーが言うように、W杯へ向かう途中の結果と最終的な結果は無関係ですが、チームが成長していく過程で、自分たちのスタイルに自信を深めながら準備を進めていくことは大事なことです」
「W杯で勝ち抜くためにはメンタルも重要な要素です。勝負どころで勝ち切るには、様々な状況への準備ができていることが大事。トーナメントの前までに、SOとして、チームとして、どれだけ多くのシーンへの対処法を得ておくか。そこがポイントです」
10月29日の日本代表戦でベンチスタートとなったSHアーロン・スミスは、ピッチに立つとカーターの112キャップに並ぶ。
それを名SOに伝えると、「アーロンと食事をする予定があるから、聞いておいてよかった」と笑い、続けた。
「アーロンは高いレベルで、(世界のSHの中で)ナンバーワンの地位をキープしてきた素晴らしい選手。簡単なことではないことを実現できているのは、常により良い選手になりたいという向上心が強いから。オールブラックスのBKラインに欠かせない存在。もともと高いスキルと経験値を持っていたが、2019年の(W杯で敗れた)経験が、彼をさらに良い選手にしているように思います。そして、その経験は、来年のW杯でもチームを助ける」
マコウは、この1年間不安定な戦いを続けているオールブラックスに対し、「苦い経験から学ぶだけではいけない」とアドバイスを送る。
「私も、何度も同じような経験をしてきました。大切なことは、失敗から学ぶだけでなく、そこから、次のアクションへつなげていくことです。敗戦から学んでも、ただ時間が過ぎるのを待っているだけでは(得たものが)モノにならないし、チームは変わりません」
そのために、「最後に手にしたいトーナメントの結果にフォーカスするだけでなく、目の前の試合、くり返される瞬間瞬間に集中していくこと以外に、(進化を続けるための)道はありません」と常勝軍団へエールを送った。