新スタイル定着へ道半ば。昨季リーグ戦2位日大、今季初黒星の背景は。
買い換えたばかりの電化製品は、それがどんなに高性能であっても使いこなすまでに時間がかかるだろう。日大ラグビー部もいま、それと似た類のジレンマを抱えているような。新たなゲームプランの運用に難儀する。
9月24日、埼玉・熊谷ラグビー場。加盟する関東大学リーグ戦1部の2節目で、今季初黒星を喫した。前年度の順位で4つ下回る6位の法大に、14-30で敗れた。
就任6年目の中野克己監督はこうだ。
「序盤から選手の動きが悪く、法大さんのペースになってしまいました。ベースから見直し、チームを立て直していきたいと思います」
得点機会を逸した。
3点差を追う前半18分頃、さらに0-10とされていた同33分頃、法大の反則をきっかけに敵陣22メートル線付近へ侵入した。逆転もしくは追撃のチャンスを迎えた。
後半5分頃にも、トライラインに迫っていた。折しも、相手HOの井口龍太郎がシンビン(10分間の一時退場処分)で抜けていた。日大は7-17という点差を詰められそうだった。
ただしいずれの機会でも、ミス、ペナルティで得点できなかった。
一度もリードを奪えなかった。
敗れたFLの平坂桃一主将は、好機における自らの判断を悔やむ。
「後半、スクラムのキーマン(井口)がシンビンになっていたにもかかわらず、ゴール前で(ペナルティキック獲得後に)スクラムではなくラインアウトを選択してしまった。ゲームの展開を考えていきたいと思いました」
プレー選択を問う以前の領域にも、敗因はあった。それは、改革に伴う痛みと表現できそうだ。
日大では今季から、元日本代表主将の菊谷崇ヘッドコーチ(HC)が現場を仕切る。
まずは従来よりも、主体性を問うようになった。指示に従って動くよりも、自分で考えて動くのを重視する。
戦いざまも変えた。以前の日大が突進と力勝負を貴んできたのに対し、菊谷体制はランとパスを織り交ぜて攻める。
間髪入れずにボールを動かし、走り勝つ。日々の練習計画は、その青写真を前提に立てられた。春季大会の試合やトレーニングマッチでも、あえてモールを組むのを避けるなど戦法を限定した。新たな型の定着に急いだ。
先発の顔ぶれも、新方針の影響を受ける。
HOの井上風雅、SHの前川李蘭と、1年時から先発争いに絡んだ3年生が、揃ってベンチに回った。菊谷HCとともにメンバーを編む中野監督は、こう説明する。
「後半の残り20分で相手を仕留めていこうとプランニングしていまして。そのあたりの時間帯でインパクトのある2人を投入すべく、彼らをベンチスタートにしています」
雨天に見舞われた法大戦も、菊谷体制の方針で挑んだ。
敵陣ゴールラインから距離のあるグラウンド中盤付近でも、SOの饒平名悠斗が大外へ展開。CTBのジョアペ・ナコのオフロードパス、FBの普久原琉の鋭い走りを織り交ぜる。チャンスを広げにかかった。
ところが、スタイルを貫こうとした多くのシーンで、鋭く飛び出す法大のタックラーの餌食となった。
左中間、右中間に球をさばこうとしたところ、タッチライン側から中央方向へとコースを取るタックラーに捕まることもあった。果たして落球がかさんだ。10点差を追っていた前半30分前後は、その傾向が顕著だった。
4年生で先発HOの林琉輝は、こう反省する。
「悪天候でボールが滑ることに、うまく対応しきれなかった。またこちらがパスを回すことを、相手に分析されていた。間合いを詰めてこられた。日大としてはラインを深くする(相手との間合いを取る)など、修正すべきことが多かったです」
ペナルティキックを得た際の速攻も、不発に終わることが多かった。かたや法大は、ハーフ線を越えたあたりでもペナルティゴールを果敢に狙っていた。着実に加点できた。
何より日大は、もともと得意にしていたスクラムでも後手を踏んだ。押し込まれたことで後退を招いた。最前列で組んだ林は述べる。
「相手の最前列は皆、4年生で経験が豊富。うちのスクラムに対する修正能力が高かった印象です」
林もまた4年生だった。
つまりこの午後の日大は、新機軸を表現しきれなかったうえ、以前の得意技も繰り出せなかったために屈したと映る。
今後はスタイルそのものを見直すか、スタイルの遂行度合いを高めるかの選択が迫られそうだ。
平坂主将は、迷わない。
「春から展開するラグビーをやってきた。(リーグ戦が)シビアな状態になってもこれを貫き通したいです。ただし速いポジショニングをしなければ、展開以前に、それまでやっていた狭いラグビー(局地戦主体)もできなくなってしまう。まずは速いポジショニングを意識し、次に進みたいです」
10月2日、埼玉・セナリオハウスフィールド三郷で昨季5位の流経大に挑む。
初の日本一達成へ、最初に信じた道を変わらずに信じる。加えて、信じた道を進むための最善手を打つ。少なくとも、平坂主将はその覚悟だ。
手に入れたばかりのツールをすいすいと使えるようになったら、もっとラグビーが楽しくなるかもしれない。