サクラセブンズ・中村知春が求めたい「器」。選手兼コーチとして自然体。
大事なのは「器」だ。中村知春は言う。
サクラセブンズこと女子7人制日本代表の一員として、8月12~14日のセブンズチャレンジャーシリーズ2022・チリ大会を見据える。
今度の大一番を、「サクラセブンズの未来がかかっている大会」と捉える。優勝すれば、来季のワールドシリーズに常時参戦できるからだ。それは2024年のパリオリンピックに向け、多くの国際経験を積めることを意味する。
直前に迫った大事な戦いで結果を出す鍵は。中村が答える。
「プレッシャーを抱えられる器をどれくらい広げられるか…。ポテンシャルは、完全に昇格できる(に十分)。その力をどう出すかが課題だと思っています」
埼玉県内で合宿中の7月27日、オンライン取材に応じた。
サクラセブンズで主将経験のある34歳は、蓄積されたキャリアをもとに「器」の意図を掘り下げた。
「いろんなトラブルへの対応力、(試合で)うまくいかなくなった時の波の戻し方…。これを残りの期間でどう学んでいくか、です」
メンバー入りが叶わなかった東京オリンピック以降、プレーイングコーチとして戦列に復帰。首脳陣と選手とのパイプ役を担う。
チームメイトの平野優芽はこうだ。
「先頭を走ってくれる選手であるのは、これまでと変わりないです。スタッフミーティングにも参加してくださっているみたいで、そこでのレビュー、スタッフから出た課題を共有してくれている。なかなか選手に回ってこない情報も、知春さんから詳しく具体的に教えてもらえます。(練習で)自分たちは集中していい雰囲気でできていると思っていても、外から見ると硬くなりすぎていると映っていたり、視野が狭くなっていたりする。そういう周りが感じ取る雰囲気、スタッフから出てきた話を、伝えてくれます。自分たちにとっては、『何がよくて、何がよくないか』を考えさせられるきっかけになっています」
鈴木貴士ヘッドコーチも、全幅の信頼を置く。
「懸け橋となってくれていて、非常に助かっています。(攻防の起点の)ラインアウト、スクラムでは、コーチング的要素を担ってもらっている。彼女には負担になるかもしれないですが、いまのチームには必要だと感じています」
当の本人は、この調子だ。
「自分のなかではいままでと変わらないです。公式にプレーイングコーチという肩書きをもらったおかげで、選手が真剣に話を聞いてくれているかな、とは感じますが。99パーセント、プレーヤーとしてピッチに立っています。コーチたちにも『いちプレーヤーとしてフラットに見てください』とはお伝えしています」
立場を客観視する。その姿勢は、組織を語る際にもにじむ。
東京オリンピックでは、最下位の12位に沈んでいる。近年の結果を受け、中村はこうも言う。
「iPhoneが、1年前の写真をドーンと出してくる。それで(東京オリンピックの時は)こんな思いだったな、と振り返るんですが…。いま、サクラセブンズは客観的に評価が落ちていると思います。いまはジャンプするための踏み込み期間。粛々と力をためて、結果を出すことにフォーカスしています」
9月には南アフリカでワールドカップ・セブンズを迎えるが、まずは目の前の戦いで結果を出したい。約2年後のパリオリンピックへの意識を問われれば、「個人的にはパリ大会は見ていない」。自然体で話す。
「前回(東京オリンピック)の結果は、普通に強化していって超えないといけないものだと思っています。今回のチャレンジャーシリーズは、パリ大会以上に大事になると思っている。そこで結果を出す。そうすれば自ずと、パリ大会での結果は変わってくる」
サクラフィフティーンこと女子15人制日本代表は、今秋のワールドカップ・ニュージーランド大会に向け順調な調整ぶりをアピール。5月に格上のオーストラリア代表を敵地で破り、7月24日には岩手・釜石鵜住居復興スタジアムで南アフリカ代表を下している。
カテゴリーの異なる代表チームの活躍を受け、中村は「嬉しいんですよね。自分でもどんなふうに感じるのかな、とは思っていたのですが」。かねて、サクラフィフティーンのレスリー・マッケンジー ヘッドコーチの理念に触れていた。
それだけに「目をかっ開いて、サクラフィフティーンの活躍を見たいです」と、笑みを浮かべて言った。
「応援されるチームの作り方を、改めて学ばせてもらっています。誠実さ、ラグビーの楽しさを全面に出すこと、真剣さ、ひたむきさ…。それはサクラセブンズがもうちょっと頑張らなきゃいけないことだと、私は思っているので」