シピタウ練で声はガラガラ。「22メートル内ではブルドーザー」。レメキ[トンガ・サムライXV]、勝利を誓う。
トンガンは陽気だ。
6月11日に日本代表候補のエマージング・ブロッサムズとチャリティーマッチで戦うトンガ・サムライXV。6月10日には、試合前日練習を秩父宮ラグビー場でおこなった。
練習はフルで報道陣に公開された。
シークレットとなったのは、特別な『シピタウ』(ハカ=戦いの前の舞い)の練習の時だけだった。
練習を終えたホラニ龍コリニアシ FWコーチが言う。
「短い期間の活動。どれだけ意思統一できるか、が大事。チャリティーマッチです。テーマは感謝。僕らの強みをすべて出すだけ」と話したあと、続けた。
「今回の僕の一番のチャレンジはトンガ語でのコーチングです。(ワイルドナイツでも)やったことがないですから」
高校時代(埼工大深谷=現・正智深谷)から日本で暮らす同コーチは、そう言って周囲を笑わせた。
続いて取材に対応したレメキ ロマノ ラヴァ(グリーンロケッツ東葛)の声はガラガラだった。
「毎日シピタウの練習をしていますから」
FWコーチ兼チームマネージャーを務めるタウファ統悦さんによると、朝、昼、晩と、毎日3度の練習をおこなっているという。
レメキが言う。
「(シピタウは)試合の前にやるもの。うまくできなかったら試合にも影響がある。自分たちの文化であり、戦うためのもので、全部試合につながっています。これがうまくいけば、試合もうまくいく」
同胞との時間を「最高に楽しい」と笑顔を見せた。
日本代表として何度も戦ってきた同選手にとって、シピタウは初めての経験だ。
「これまで機会はありませんでした」
本人はニュージーランド生まれ。トンガ生まれの両親は現在、オーストラリアに住む。しかし、親戚はトンガで海底火山大爆発による被害を受けている。
「みんなの分まで(背負って)戦う責任がある」
チャリティーマッチのメンバーへの誘いの声がかかった時、レメキは、「パーテイーだ!」と喜んだという。
「(自分の)子どもたちの世話から解放され、お酒を飲んで、練習なし。そう思っていたら、ラトゥさん(監督)は、めちゃくちゃ厳しかった。練習もきつい」
でも、結局はそんな日々がたまらなく楽しい。
昨秋の日本代表にも加わり、ヨーロッパ遠征にも参加した。今回のチャリティーマッチで活躍し、宮崎で合宿中の日本代表へ加わりたい意思は?
「もう、おじいさんだからないよ。宮崎(合宿)はきついから、行きたくない。今回の試合が終わったらリラックスして、ゆっくりしたい」
おどけて、そう答えた。
試合の展望を語る。
「ボールキャリーの強い選手たちばかりだから(SOの自分は)ラク。普通(いつも自分がプレーしているチームなら)外国人が突進したあとは、次に日本の選手(へパス)。だけど、このチームは、みんな各(所属)チームのペネトレーター。(自分は)パスとキックだけでいい」
自ら前へ出るのは「余ったときだけ」と笑った。
トイメンは、日本代表時代の仲間である田村優。
「(自分は)優しいから当たりにいかない。優には宮崎に行ってほしいしね。抜く時は、当たらないように走る」と話した。
フィジカルで上回り、「明日は勝つと思う」と言う。
「自陣ではプレーしません。22メートル(ライン内)に入ってからはブルドーザーでいく」
トライラインに迫れば、タテ、タテ、タテと、パワープレーの連続で攻めそうだ。
LOで先発するエセイ・ハアンガナ(埼玉ワイルドナイツ)は、23歳とまだ若い。静かに、戦いへの気持ちを口にした。
「トンガ人は家族を大事にします。家族のようなチーム。明日は、お互いのためにプレーします。家族のため、国のために戦う。楽しむことで結果もついてくると思っています」
あたたかくて熱い戦いが楽しみだ。
この試合のために作られたシピタウは、きっと心に響く。
試合の映像は、トンガだけでなく、世界各地に届く。統悦コーチは、「多くの人たちにトンガと日本の関係の深さが伝わると思う」と話した。